――ちりん。
铃の音が闻こえる。旅の途中で何度も闻いたものだ。普段はあまり気に留めないが、周りが静かになった时にだけ耳に届く。
この控えめな音はいつも俺を安心させた。友人の存在を近くに感じることができるからだ。周りは何も见えないほどの暗暗だが、すぐ近くにあいつがいると分かる。俺は彼を呼んだ。
「――――」
自分の声が闻こえなかった。おかしい、もう一度。
――ちりん。
铃の音がさっきよりも远くなった。俺に気付かずに离れてしまったんだろうか。すると、铃がぱしゃりと水の中に落ちたような音がした。池か何かに落としたらしい。大事なものなのに迂阔な奴だ。普段俺に兄贵风を吹かして注意するくせに、あいつの方だって意外に抜けているんだ。
视线の先に、きらりと光るものが见えた。金色――やっぱりあいつの铃だ。暗くてよく见えないが、どうやら水溜まりに落ちているようだった。池や川じゃなくて良かった。俺は拾ってやろうと、小さな光の方に向かった。
「……?」
近付いていくと、铃の傍に谁かが倒れているのが见えた。
金色の髪。
ぎくりと肩が跳ねた。
头をこっちに向けて、友人が倒れていた。
水溜まりに浸された髪が水を吸い上げて、どんどん濡れていく。浊っているのか、黒く。
俺はマイルの傍に跪いて名前を呼んだ。そのはずなのに、自分の声が全く闻こえない。铃の音は确かに闻こえたのに。
金色の髪に手を差し伸べて、彼の身体を抱き起こそうとした。浊った水がぬるりと手を滑らせてうまく抱き上げられない。もどかしくて手のひらを自分の服で拭った。
そして気付いた。この感触は水じゃない。泥水とも违う。手を擦り付けた腰布は黒く――赤黒く染まっていた。
血だ。
傍に落ちているのは铃。血に浸された、彼の宝物。この血は谁のものだ?
唇が戦栗いた。
何も闻こえなかったが、俺は叫んだのだと思う。喉が痛んだから。
* * *
次の瞬间、俺は自分が息を吸う音で目が覚めた。
见惯れないクリーム色の天井。それを背にして、友人が俺を见下ろしていた。
「……マイル」
吐き出した声は掠れていた。
梦だった。気持ちが悪い。汗をびっしょりかいている。
「うん、仆だよ」
マイルは穏やかに言うと、俺のベッドの脇に座った。窓から差し込む月明かりに照らされた金色の髪。暗に浮かぶようなそれに梦が思い起こされるような気がして、背筋が震えた。
「起こした……よな。悪かった」
やっとのことで告げる。マイルは首を振って、汗で额に贴り付いた俺の髪を、抚でるように掻き上げた。濡れているのに気にした様子もなく、子供にするように何度も。いつもなら子供扱いするなと言うところだが、消耗していた俺は心地良さに目を闭じた。吐き気が引いていくのが分かる。
この梦を见るのは三度目だった。俺は确かに自分の手で冥府に堕ちたマイルを取り戻したのに、未だに彼を失う恐怖に怯えている。もう三ヶ月にもなるのに、进歩のなさに自分でも笑ってしまう。
あの情景は俺の记忆じゃなく、后で闻いた话を総合した、言わば妄想だ。でも俺は、なぜだかは分からないが、あれが真実だと知っていた。感触がリアルだからじゃない。俺は确かにあの音を闻いた。血溜まりに落ちる铃の音。
「実は、初めてじゃないんだよね」
俺は惊いて目を开けた。
「たまに君が魇されてるのは知ってた。でも知られたくないようだったから、寝た振りしてたんだ」
「……マジか?」
彼はマジ、と笑った。
「でも失败だったな……、仆はてっきり、アイメルのことで魇されてるんだと思ってたんだ。小さい顷からあんなに気に病んで、今もこうして离れてて、心配なんだろうって。それは仆じゃどうにもできない。时间が必要だって」