「王と裏切り者」壁井ユカコ (大概是《王与背叛者》黄战士的文)
一度くらいは行っておこうと思った。理由になっていないかもしれないがそんな理由で、周防尊が勾留されている房に足を向けていた。
「……伏见か」
と、呼ばれた瞬间条件反射で身が萎缩した。鉄格子が嵌まった小窓の向こうに见える男はこっちをいっさい见ていない。背中を向けて寝台に寝転がっているだけだ。こっちから音を立てたわけでもないのに、
「なんでわかっ……たん、ですか」
声帯が强张って、喉を塞ぐ异物感を押しだすようにして声をだした。《吠舞罗》を抜けて二年が过ぎているというのにあの顷と変わってないと思い知らされる。この人の近くでは息がしづらくなる。
ふん、とかすかに肩を揺らして周防は笑い、それで质问の答えにしたようだった。自分の力の一部を与えた者の気配を察することなど《王》には造作ないのかもしれない。周防の"赤〟は伏见の中の、片隅に未だ宿っている。
格子窓を挟んで伏见にとってはいたたまれない沈黙がおりる。灭多になかったものの周防と二人になるといつもこうだった。「ウチで极端に"ふきだし〟が少ないツーショットはキングとアンナか、キングと伏见だよね」と昔もよく言われていた。「キングとアンナの场合は时间がマイペースに流れてるんだけど、キングと伏见の场合は时间が冻りついてるのが目に见えるよねー」などと、无责任に面白がっていた人がいたものである。「いた」というのはそのままの意味で、今では过去形だ。
「楽しくやってんのか」
気怠そうな低い声で问われた。相変わらず背中しか见えないので肩胛骨が喋ってるんじゃないかとちょっと本気で思えてきつつ、最大限の嫌味で伏见は返してやる。
「别に楽しかないですけど……そっちにいたときよりはマシです」
気にするわけもないと思ったがやはり周防は気にしたふうもなく、「そうか」と相づちを打っただけだった。その淡泊な反応に少々苛立たされ、肩胛骨に向かって问う声に棘が混じった。
「八田……とか、他の连中はともかく、アンナはどうするんですか。万一あんたが……」
肩胛骨は今度はぴくりとも反応しなかった。ずるいよな、あんたは……と伏见は思う。あんたを慕って集まってきた多くの人间の思いを无视して一人で破灭しようとしている、そういう自分を最低だとは思わないのか?
「……あんたのまわりに、"仲间〟なんてもの、集まらなければよかったのに」
ぼそっと零すと、肩胛骨がまたかすかに笑った。
「本心からそう言ってくれんのはおまえくらいかもしれねえな。おまえはそれでいい、伏见。おら、长居するもんじゃねえ。おまえの《王》んとこに戻りな」 * 非常阶段を使って情报室がある阶に戻ったのだが、待ち伏せていたかのように阶段の上に青い队服を缠った足が见えた。室长か……とぎくりとしたが、女性队员の制服だ。
「淡岛副长……」
片手にタブレット型タンマツを持ち、片手を腰にあてた淡岛が険しい颜で见おろしていた。
「行くなら谁かにひと言言っていきなさい。黙って一人で周防尊と会っていたとなれば无用な误解を招きかねないわ」
「……误解じゃないかもしれないですよ。俺が《吠舞罗》と内通してたらどうします?」
口を尖らせて言い返すと淡岛は軽く目を开いたが、すぐに「ふ」と、目を细めてどことなく柔らかい笑いを漏らした。「脂汗を渗ませて震えている内通者がいたとしたら、少なくとも好んで向こうについている人间ではないでしょうね。报告会の时间よ。资料はできてるでしょうね」
一瞬绝句させられてから、伏见は冷たい汗が渗んだ手のひらを身体の横で握り込んで「……チッ」と舌打ちをし、
「谁に言ってんですか。できてますよ」
きびすを返して姿势正しく歩きだす淡岛のあとを追いかけた。