「この部屋が一番绮丽に见えるって事に、最近気付いたんだ。」
风の反応に満足そうにフェリオが言い、风を部屋の中に促す。风は视线を夕暮れに向けたままで颔き、部屋の中、そして予め开け放たれていた窓を进み、ベランダの栅に手をかける。ここではもう、夕日以外に何もない。
「…やっぱり、セフィーロの自然は绮丽ですね。」
ほうっ、とため息をついて、风が言う。それからはっと何かに気付いたのか、隣に立って同じように夕暮れを眺めていたフェリオの方を见上げた。「でも気付いたって…この部屋は、客室、ですよね?わざわざ探さないと―。」
「わざわざ探したんだよ。」
フェリオが彼女の言叶を缲り返して、微笑む。「『バレンタインデー』、だろう?」
风が息を呑む。そして、でも、と呟く。目线は、自分の手に下げられた纸袋に移る。彼女が彼の为に作ってきた生チョコ。
「いつもは私がお菓子を作ってきて…。」
「そう。だから、今年は俺からお前に。」
フェリオの腕が伸びて、両手が风の両頬を挟む。彼女の頬が赤いのは夕焼けのせいだろうか。「お前の手作りのお菓子も嬉しいけど、俺はお前が来てくれることが一番嬉しい。」
フェリオの唇が、风の额に触れた。そして微笑んだ风に、フェリオがからかうように言う。
「余裕だな。初めてこうした时は、お前、表情が固まってたのに。」
フェリオの言叶に、え、と风がフェリオを见上げ、目をぱちくりさせた。それから间を置いて、頬を赤く染める。明らかに夕日の色だけではない、その赤さ。风の手が、フェリオの唇が触れた部分に触れる。
「そ、そんな、改めて言われると…い、意识してしまいますわ。」
そう言ってしどろもどろに俯いた风に、フェリオがくすくすっと笑った。そして彼女の颜を覗き込んで、悪戯っぽく、しかしどこか真剣な口调で言う。
「もっと、俺の事を意识して欲しい。」
フェリオ、と掠れた声で名前が呟かれる。呟いた唇に、フェリオの唇が触れた。何度か口付けた后、フェリオが呟いた。「…こうするのも、决して当然なんかじゃない。」
フェリオが风を好きで、风がフェリオを好き。それを単纯に両思いを呼ぶのは简単だけれど、それは奇迹に近い。ましてや、世界を超えて通じ合ったこの思いは―。
「―当然だなんて、思ってませんわ。」
フェリオの背中に腕を回して、风が言う。そして彼の胸に身を预けて続けた。「そうじゃなきゃ贵方のためだけにチョコなんて作ってきません。」
「…そうだな。」
彼女の细い肩を、フェリオは抱きしめる。
―やっぱり分かっていない。―
彼女は当たり前のようにセフィーロに来てくれている。それが、フェリオにとってどんなに大事か。どんなに嬉しいことか。
セフィーロは意志の世界。异世界からここに来る为には、『セフィーロに行きたい』という愿いがなくては、たとえ『道』があっても来ることは叶わない。だから、彼女はこうして今、彼の腕の中にいるけれど、それは彼女が愿って叶う事。
当たり前にできる事ではないんだと、彼女は気付いているだろうか。
「来年も―。」
声が掠れてる。意识したせいで紧张するのは、风だけではない。「二人きりで夕焼けを见れたらいいな。」
「见れますよ。」
间髪いれずに风が答える。そして楽しそうに笑った。「来年はケーキに挑戦してみたいですわ。」
―やっぱり。―
当たり前のように、彼女は笑った。しかし、来年もこの関系が続いている事を当たり前に思ってくれている事も嬉しくて、フェリオは思わず彼女をきつく抱きしめていた。