三 上一段動詞
上一段動詞は、語尾が五十音図のウ段の音を中心にしてイ段の一段だけに活用する。「着る」「見る」などのように、語幹と語尾との区別のないものが十一語ある。したがって、「顧みる」「用ゐる」などのように、語幹と語尾との区別のあるものが十語ある。上一段動詞は、「カ行、ナ行、ハ行、マ行、ヤ行、ワ行」の六行にあらわれる。

例文:
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【未然形】「いかで月を見ではあらん」とて・・・ <竹取物語・9>
●「どうして月を見ないでいられましょうか。」といって・・・
【連用形】まさしく見たりといふ人もなく・・・ <徒然草・50段>
●実際に見たという人もなく・・・
【終止形】春は藤波を見る。 <方丈記・3>
●春には藤の花を見る。
【連体形】よそながら見ることなし。 <徒然草・137段>
●離れているままで見るということをしない。
【已然形】「君をし見れば」と書きなしたる、御覧じ比べて・・・ <枕草子・23段>
●「君をし見れば」と書き変えたのを(中宮様は)見比べなさって・・・
【命令形】魚(いを)と鳥のありさまを見よ <方丈記・4>
●魚と鳥とのありさまを見てみよ。
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解説:
1、上一段動詞は、次のもののみである。
カ行→着る
ナ行→似る・煮る
ハ行→干(ひ)る・簸(ひ)る・嚔(はなひ)る
マ行→見る(後見(うしろみ)る・惟(おもん)みる・顧(かへり)みる・鑑(かんが)みる・試(こころ)みる)
ヤ行→射(い)る・鋳(い)る・沃(い)る
ワ行→居(ゐ)る・率(ゐ)る・率(ひき)ゐる・用(もち)ゐる
2、「試みる」はマ行上二段(終止形「試む」)にも活用し、「用ゐる」はハ行上二段(終止形「用ふ」)にも活用する。「居(ゐ)」は「居(を)り」と読むと、ラ行四段動詞である。
3、上一段動詞には、語幹と語尾との区別のないものが多い。
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語釈:
①では→「・・・なくては」。
②とて→「・・・といって、・・・と思って」。
③簸る→箕(み)を使って穀物の中のごみを取る。
④嚔る→くしゃみをする
⑤沃る→あびせる。