这是原文 或者谁日文比较精通的帮忙翻下大体意思 多谢
「――いってしまった、か。やれやれ、思いのほか手強いものだな、彼は」
――スバルの立ち去ったあとの教室。
がらんと無人の机と椅子ばかりが並ぶ室内に、取り残されたエキドナは己の前髪に手を差し込んで、一人楽しげに机に体重を預けていた。
ぱらぱらと、世界の崩壊が始まっている。
記憶を頼りに再現した世界が、頼る相手を失って虚構の塵へと還っていくのだ。その失われていく世界を肌に感じながら、しかしエキドナの意識は今にも消えてしまいそうな足元や、大気には一切向けられていない。
彼女の意識は一点――黒板の前、教卓の位置へと向けられていた。そこに、
「さすがは君が思いを傾ける相手、というべきなのかな」
「――私のあの人に私のあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人にあの人に」
「自分の城に閉じこもって、たまに会えても怯えて忘れさせてしまう。そんな体たらくで、よくもまぁそんなに主張できるものだ。ワタシには理解できないな」
「余計なこと余計なこと余計なこと余計なこと余計なこと余計なこと吹き込んで吹き込んで吹き込んで吹き込んで吹き込んで話すな話すな話すな話すな触るな触るな触るな触るな触るな私の私の私の私の私の私の私の愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」
ひたすらに常軌を逸した言葉が発され、エキドナは嫌悪感に眉を寄せる。
その彼女の眼前、教卓の前に一つの人影――女性の影が生じていた。漆黒のドレスを身にまとい、長い銀髪を躍らせる影だ。ただ、その胸から上には呪詛ともいうべき禍々しい黒い影が覆い尽くしており、その顔を見ることはできない。
もっとも、語る言葉と発する狂気から、想像を巡らせることすらおぞましいが。
スバルの退室後、唐突に降って湧いたその存在を、エキドナは当然のように受け入れる。まるで、ここにそれが現れることを知っていたかのように。
「当然といえば当然だろうね。ご執心の彼の心に土足で踏み込ませてもらったんだ。君の領域には触れないようにしたつもりだったが……それでも、互いに不可侵というわけにはいかないのかな?」
「指先一つでも皮膚一枚でも爪の甘皮一枚でも髪の毛一筋でも汗の一粒でも唾液の一滴でも言葉の一つでも呼吸の一息でも感情の一欠片でも全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て全て……」
「自分のもの、というわけか。いやはや、君を前にするとワタシも『強欲』の名を返上したくなるよ。一人にそこまで、到底考えられない」
「愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる」
それ故に、禁忌に触れたエキドナを『嫉妬』は決して許さない。
影が一歩前に踏み出した。それだけで、彼女のそれまでいた空間が影の中に呑み込まれて消える。教室の前面、黒板の設置されていた壁と、座席の三列目までがいっぺんに魔女の影の中へと引きずり込まれて咀嚼される。
かろうじて後ろに飛んだエキドナは被害を免れたが、その彼女を追うように影が腕の形を成して伸び上がるように首を狙う。のたくる漆黒の蛇の牙を前に、エキドナは吐息を一つ漏らすと、
「ここで消されるのはあまりにも未練が残るのでね。少々、卑怯な手を取らせてもらうよ――」
そう言ってエキドナがかすかに身を沈めた直後、エキドナの喉を狙っていたはずの影が衝撃に打たれて弾け飛んだ。
その光景に影の進む足取りが停滞。だらりと両手を下げていた影の前、エキドナの立っていたはずの場所に佇むのは、
「こうも頻繁に呼び出されちゃ、はぁ。おちおち寝てもいられないさね、ふぅ」
気だるげに息をつきながら、地べたにべったりと座りこんだ赤紫の髪の女性――『怠惰の魔女』セクメトの顕現だ。
それを確認した影は、しかしやることは変わらないと前に進み出ようとする。が、
「はぁ、無駄さね」
その影の上半身が、すさまじい衝撃に弾かれるようにしてのけ反った。
打撃の威力に影が後退し、自身が生み出した闇に半身が沈む。その結果にゆらりと首をもたげながら、影がその右腕を持ち上げてセクメトへ向けた。
途端、教室の半分を呑み込んだ影から一斉に、視界を覆い尽くすほどの黒い魔手が放たれる。四方八方から、全方位を塞ぐ死の黒影――しかしそれすらも、
「無駄だって、言ってるじゃないさね、ふぅ」
渦巻く黒い魔手の全てが一瞬で消し飛び、なおも留まることのない余波が影の全身に連続して打ち込まれる。衝撃に振動する影の肉体を壁に縫いつけ、それをやる気のない顔で見上げるセクメトは体育座りのまま微動だにしていない。
だが、それでもなおもセクメトの攻撃は影の全身に叩き込まれ続け、次第に茫洋としていたその肉体を砕き始めている。
衝撃音と、悶える影の様子を乱暴に髪を掻きながらセクメトは見やり、
「あらかた力を封印された状態で、はぁ。おまけに性悪のエキドナが作った城の中で、ふぅ。地力で負けてる状態で、はぁ、あたしに勝てるわけないさね、ふぅ」
欠伸を噛み殺すセクメト。その打撃が止み、打ちのめされた影がその場に膝をついて崩れ落ちる――と、それを真上からの衝撃が容赦なく地面に叩き潰した。
黒い影の中に沈み、消えていく『嫉妬』がセクメトを見上げる。
「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして私と私と私と私と彼の彼の彼の彼の彼の彼の邪魔を邪魔を邪魔を邪魔を邪魔を邪魔を邪魔を――?」
「はぁ。――答えるのも、面倒臭い」
辛辣に叩きつけて、セクメトは持ち上げた手を小さく下に振る。
その瞬間、校舎の半分が衝撃で崩落し、土砂と大地の崩壊が『嫉妬』の影を呑み込んで地の底へと呑み込んでいく。
すでに消失の始まった世界で、あそこまで崩落した先へ落ちれば戻ってくる方法はどこにもない。
「死んでまでどうして、ふぅ。またあんなのに付き合わなきゃならないんだか、はぁ」
自身の行いで崩落の早まった世界。失われていく教室の片隅で、崩れていく中を少しでもマシな方へと隅っこに尻を滑らせる『怠惰の魔女』。
彼女は背を壁に預けて、終わっていく世界と役目の終わりとともに引っ込められる感覚を感じながら、ついに割れ砕けた窓の外の太陽を見上げて、
「ままならないもんさね、ふぅ。魔女も――魔女に魅入られたものも、はぁ」
そう物憂げな吐息が漏れた直後、世界は光とともに消えてなくなった。