「洗濯物が乾かなくて」「もういい加減、晴れてほしい」。そんな会話を聞かぬ日がないほど、首都圏では曇天が続く。季節外れの肌寒さに体調を崩す人も少なくないようだ▼埼玉県草加市では、名物のせんべい作りに影響が出ている。生地の天日干しが進まないからだ。「困っています。このままだと、乾燥させた生地は在庫が底を突きそうです」。小宮せんべい本舗の5代目、菊地友成(ともなり)さん(42)は話す▼米を練る、蒸す、干す、焼くという工程に、陽光は欠かせない。「紫外線をたっぷり浴びると、米の甘みが出て、格別のおいしさになります」。だが草加市周辺では、先月末から晴れ間が少なく、日照時間は例年の1割にとどまる▼強い日差しがあれば2日で十分に乾燥する生地が、今月は1週間もかかる。焼き上げるのは日に2千枚。未乾燥の生地は、木箱に収められ、じっと晴天を待つ。あすは干せるか、あさっても無理か。菊地さんは天気予報をスマホで何度も確かめるという▼関東を中心に日差しの乏しい梅雨寒が続く。きのうは「冷夏の可能性」という朝刊の記事も見た。思い出すのは、1993(平成5)年の冷害である。実りの秋も田んぼは黄金色に染まらず、稲穂は青く頼りないままだった。米不足を受けて緊急輸入されたタイ米の味をまだ覚えている▼「災害級」と呼ばれた昨年の猛暑を思う。熱中症で9万人余りが搬送された。あまりの天候の違いに、どこか別の国で暮らしているかのような錯覚に襲われる。