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128 決断


IP属地:福建来自iPhone客户端1楼2020-02-07 15:23回复
    「ひとつ、とても残念なことを言わないといけないわ」
     翡翠はとても悲しそうに切り出した。
    「どうしても、女同士で妊娠する手段を見つけられなかったの。私にペニスさえあれば、何の問題もなかったのに……」
     いや、問題はあるんじゃないかな。
     思わず心の中でツッコミを入れる。
     そりゃ、男に抱かれるよりは抵抗は無いけれど。
    「科学でも魔法でも無理だなんて、ほんと使えないわ」
    「えっと……科学はわかるけど魔法って?」
    「エイモックという男に聞いたわ」
    「……っ! エイモックに会ったの!?」
    「ええ。誰にも聞かれたくなかったから一人で……蒼汰の妹だと名乗ったら呆れてたわね」
    「何をやってるの!?」
     エイモックはこの前俺と蒼汰に煮え湯を飲まされたばかりだ。そんな相手に一人で会いに行くなんて……
    「魂操作ソウル・マニピュレータで胎児に魂を移せるのか確かめる必要があったもの。何の根拠もなくこんな提案できる訳ないでしょ? まさか、アリシアに聞くわけにはいかないし」
    「それにしても無謀すぎるよ! あの男がどれだけ危険なのかわかってるの!?」
    「そんなの重々承知の上よ。でも、他に選択肢はなかったから仕方ないじゃない。それに、実際に会ってみたら話のできない相手じゃなかったわよ?」
    「話ができるから危ないんだ! もし、話してる言葉に魔法を乗せられていたら、いつの間にか洗脳されていたかもしれないんだよ!?」
    「でも、アリスも一人で会いに行ったのよね? それは、アリシアを助けるのに必要だと思ったからなんでしょ?」
    「そ、それは……そうだけど」
    「私も同じことをしただけよ。それなのに、あなたは私のことを責めるの?」
    「だって、翡翠は女の子なんだし……危険すぎるよ」
    「あなたもじゅうぶん女の子してると思うけどね……いずれにしろ無事だったんだしいいじゃない。それよりも話を進めましょ?」
     いまさら言い争っても仕方のないことだろう。
     俺は渋々了承した。
    「妊娠して胎児に魂を移すことが可能かどうか聞いてみたら、その手があったかとエイモックは面白がっていたわ。理論的には可能だそうよ。過去に母親が胎児に魂を移した例もあるみたい」
    「……なんであいつは、それを私に教えてくれなかったんだ」
    「結果は失敗だったみたいだから思いつかなかったそうよ。その人の場合、魂の転移は成功したけど、魂が失われた母胎が死亡してしまって、そのまま胎児も亡くなってしまったらしいから」
    「なるほど……」
     魂が2つあるというイレギュラーな状況だからこそ使える手段というわけか。
    「その後、魔法でペニスを作れないか聞いたら、エイモックは急に頭を抱えてしまったけど……こっちは真剣に聞いてるのに、失礼しちゃうわ」
     ……エイモック。
    「まぁ、それはいいわ……それで、アリスはどうするつもり?」
    「決まってる。私はアリシアを助けるよ」
     俺は翡翠に宣言する。
    「妊娠出産は命懸けよ? 特に小柄なあなただと出産のリスクは通常よりも高いものになると思うわ」
    「うん」
     俺は下腹部に手を当てる。
     子供はお腹の中にできて、それから、その……あそこを通って出てくるんだよな。
     全く想像もつかない。
     指ですら怖くて自分では入れたことがないのに。
     だけど、ためらう理由にはならない。
    「それに、魂の転移に成功したとしても、記憶や性格が受け継がれるかどうかまではわからないの。だから、産まれてくる子供はあなたの知るアリシアと全く異なる人物になるかもしれない。胎児の性別は選べないから、男になる可能性だってあるの」
     それでもなお、アリシアを産んで育てるのかと翡翠は問う。
    「答えは変わらないよ。私はアリシアと一緒に生きたいんだ。そのために取れる手段があるのなら、決して諦めない」
     今の俺が生きているのは、アリシアが全てを差し出してくれた結果だから。
    「……それが、本来産まれてくるはずの魂から器を奪うことになるとしても?」
     これは生命の理から外れた外法の類になるだろう。
     本来産まれてくるはずの自分の子供から体を奪う。
     これは、法で裁かれることはなくても、親として人の道を外れた罪深い行為であることは間違いない。
    「それでも、俺は……」
     諦めきれない。


    IP属地:福建来自iPhone客户端2楼2020-02-07 15:24
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      「……やっぱり、あなたはそう言うのね」
       俺の答えを聞いた翡翠は溜息をついて言う。
      「わかったわ。どんなことがあっても、私はあなたのことを支える。それが、このことをあなたに伝えた私の責任だから」
      「翡翠が責任を感じることなんてない。これは、私自身が選んだ選択だから」
       だけど、翡翠は首を振る。
      「これは、このことを話すと決めたときに決めたことなの。アリシアのことは友人だと思ってるし助けたい。それに、私はあなたの恋人なんだよ? 私にも一緒に背負わせてほしい」
      「……ありがとう」
       翡翠にそう言ってもらえるのは正直ありがたい。
       妊娠出産に関する知識はまるでなかったし、なによりも翡翠が居てくれること自体が心強かった。
      「確かアリスは前の生理から今日で24日目だったわよね? 普通に考えたら今は生理前の高温期だと思うけど、アリスはまだ生理周期が安定していないから、妊娠できる可能性はゼロではないか……基礎体温なんて測っていないわよね?」
      「基礎体温って何……?」
       まぁ、そうよね、と翡翠は言った。
       体温が妊娠に何か関係があるのだろうか……?
      「そ、それよりも、どうして翡翠は私のそんなことまで知ってるの!?」
       俺の生理事情を把握しすぎていて、正直少し引いた。
      「女同士ですもの。毎日見ていたらわかるわよ、それくらい」
      「そ、そんなものなの……?」
      「ええ、そうよ」
       さらっと翡翠は言い切る。
       俺は他の人のなんて全然わからないけど……
       でも、友達との会話の中で今日は何日目で辛いとか出てくるから、それを憶えていたら、なんとなくわかるの……かな?
       ……深くは考えないことにしよう。
      「それから、さっきはああ言ったけど妊娠は性行為以外でも可能よ。具体的に言うと人工授精や体外受精ね」
       それは聞いたことがある。
       採取した精子を器具で体内に入れるとかいうやつだ。
      「それだったら、まだ抵抗は少ないかも……」
      「だけど、問題はあるの。日本ではそれらの手段は不妊治療でしか認められていない。だから、普通の方法では、今のアリスが受けることは不可能ね」
      「う……」
      「海外ならできるかもしれない。アリスのおじさまに聞いてみたらどうかしら?」
      「そうだね……」
       親に頼りっきりになるのは情けない。
       だけど、そもそも今の俺は未成年で親に頼って生きている学生でしかない。子供を産んで育てるにも、両親の全面的な協力がなければ不可能だった。
      「父さんと母さんに事情を説明して理解してもらわないと」
      「そうね……行動するならなるべく早い方がいいわ。妊娠は望んだからと言って確実にできる訳じゃないもの。最も妊娠しやすい日にセックスをしても妊娠するのは三割くらいと言われてるわ」
      「……三割」
      「アリシアの魂が完全に消滅するまで多分二〜三ヶ月程しかないの。それに、遅くなればなるほど魂は摩耗していくから、なるべく早いに越したことはないわ」
       生理は概ね月に一度だから、チャレンジできるのは三回あるかないか。
      「わかった」
       分の悪い賭けなんて異世界では日常茶飯事だった。
       それを俺とアリシアは二人で乗り越えてきたんだ。
      「……大丈夫、なんとかなる」
       俺は自分に言い聞かせるように呟いた。


      IP属地:福建来自iPhone客户端3楼2020-02-07 15:24
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        谢谢楼主


        来自Android客户端4楼2020-02-17 03:19
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