「補助金は、ときの政権にとって、使いやすい統治の手段である」。朝日新聞の政治記者だった広瀬道貞氏が著した『補助金と政権党』はそんな書き出しで始まる。「政府はうしろの方にいて補助金のひもを締めたりゆるめたりしながら、相手を思う方向に誘導していく」▼法律や通達のように権力がぎらつくことがないという点も指摘し、補助金の本質を突いている。1980年代に出た同書は農業や公共事業の補助金がいかに肥大化し、削減が難しくなっているかを分析する▼時代は移り、全国民向けの「旅行補助金」すなわちGoToトラベルも、人々をうまく誘導したようだ。事業に一定の意味があったと思うのは、一時は県境を越えた移動が全て悪であるかのような行き過ぎがあったからだ▼それを解消した時点でGoToは役割を終えたのではないか。弱点も明らかになっており、感染対策には臨機応変さが必要なのに、停止すると多額のキャンセル料が発生する。それをまた税金で穴埋めするというばかばかしさである▼そもそも旅行する余裕のない人は恩恵にあずかれない。医療現場でコロナと闘い、感染への警戒から移動を控えている人には不公平以外の何物でもないだろう▼今回のGoToトラベルの停止を大きな政治決断とする向きもあるが、とんでもない。税金を使ってまで旅行を促す補助金行政を一時的に止めたにすぎない。感染第3波にどう立ち向かうのか。菅首相から中身のある言葉をまだ聞いていない。