いかに卓越したアスリートでもあらがえない敵はいる。それは年齢であり、時間だろう。大リーグの歴史に名を刻むジム・パーマーという剛腕投手も例外ではなかった▼オリオールズで通算268勝をあげ、球界の栄誉はあらかた手に入れた。1990年には野球殿堂へ。その翌年のことである。再びグラブを携えてキャンプに現れた。引退から7年、45歳による現役復帰の挑戦を、働き盛りが陥る不安やうっ屈した心理になぞらえて「中年の危機」と冷ややかに見る人もいた▼年齢と空白期間の恐怖を野茂英雄さんから聞いたことがある。「引退前にはオフ返上で練習していた。休むほどに体力も感覚も取り戻すのが難しくなる」。パーマーの挑戦は故障もあって開幕前に終わったが、限界に挑む姿に最後は静かな拍手が送られた▼きのうに続き野球の話にお付き合い頂いたのは新庄剛志さんの姿が忘れ難いからである。先日、退団者を対象にした国内12球団の合同テストに臨んだ。強肩好打で日米をまたにかけて活躍してから空白は14年に及ぶ▼48歳の挑戦は無謀と呼ぶべきだろうが、1年間で肉体から無駄な脂肪をそぎ落とし、最後の打席では左前へ適時打を放った。その軌跡は鋭く美しかった。奔放な言動の内側にある彼の野球への誠実さを、プロ野球の最も厳しい生存競争が切り出された場所で見たように思う▼球団からの誘いはなく、自ら断念を表明したが、琴線にふれた中高年もいたろう。あらがう挑戦者を再び待ちたい。