原稿は一字一句正確に印刷されるべきだが、間違えることもある。コンピューターなどない活版印刷の時代は、活字を誤って拾ってしまう「誤植」がときおり起きた▼1937年、近衛内閣が発足した時の東京朝日新聞の記事がある。首相声明で「社会正義に基づく施策を出来るだけ実施」とすべきところを「社会主義に基づく……」とやってしまった。読んだ人は一瞬、革命政権が生まれたかと、ぎょっとしたかもしれない▼まるで誤植のようなことが感染症の世界にもあるらしい。ウイルスは自分の遺伝情報をもとにコピーを生み出していくが、日常的に小さなミスコピーが起きて変異種が現れる。多くの場合、性質に変化はないものの、まれに感染しやすくなったり、毒性が強くなったりする▼英国で見つかった新型コロナウイルスの変異種は、感染力が最大7割強くなったという。世界各国そして日本でも確認されており、要警戒である。かつてスペイン風邪で第1波より第2波の被害が大きかったのは、ウイルスが変異したためとの見方もある▼無症状の人からも感染が広がる新型コロナは「賢いウイルス」と言われてきた。願わくは今後は、毒性が弱くなる方向に賢くなってくれれば。その身を宿した人間を殺さず、共生できる方向に▼もちろんそう都合よくいくはずはなく、まず賢い行動をとるべきは人間のほうである。自分の生活を見直し、感染防止の手を打つ。賢明に。懸命に。パソコンによる誤変換ではありません。