「する」/「やる」の違いは?
会話:
〇「日光へ旅行をやりました」
というやり取りのあとで、「する/やる」談義がはじまった。
①「する」:自分の意思で行う=意志動詞。(旅行する、洗濯する、発表する、スタートする)
②また、状態変化(自動詞的)の表現動詞。(上達する、合格する、成功する)
これらを「やる」に置き換えできない。
③「やる」:基本は授受動詞。(物や行為をやらせる、やらされる関係)(餌をやる、一杯やりましょう)
これらを「する」に置き換えできない。
④両方使える:共同動作。
(PTA活動をする/やる、留学生祭りをする/やる、会議をする/やる、試合をする/やる)
(2)寝も「やらず」に考えて、二晩「する」と、ようやくわかった。(↑国語辞典の用例を応用しました)
当方も幾晩か寝ながら考えて、最少ルールにたどりついた(かも)。
〇辞典には
・「する」:サ変他動詞:行う。なす:サ変自動詞(自然):
(音がする、3千円もする、五年もすると)。
・「やる」:五段他動詞:行かせる、遣わせる、相手の利益として与える。
(使いをやる、金をやる、(飲食)一杯やる、書いてやる)
<ここから思考実験をはじめる。
・「やる」の原意には、行為や物の授受をする動作や、使役的動作(行かせる、遣わす)が想起され、行為者以外に相手が存在するのだと推測できる。
・この使役感覚が変化して、話者自身が「やらされる」と思い込んで、『すぐ宿題をやるから、おやつ、ちょうだい!』などと言うかもしれない。
・何度も「やりなさい!」「やりなさい!」と言われていると、相手は「やります!」と応答してしまう。
・自分が使役の請負をしたつもりになって、「やる」、「やります!」という言い方がでてきたと推測したわけです。
・つまり、義務感や責任感をもって(成果を期待して)行なう=「やる」の意味へ拡張されたのか。
(「やらされる」感じが薄まり、「する」と同義に近づいた理由なのでしょう)
・「やる」=自分をしてやらせるという再帰的動詞なのかもしれない。>
(3)「やる」の原意を大切に
「やる」=授受動詞、使役動詞、を使う場面での「登場人物」を想定することが大事です。
〇登場するのは、①行為者、②被行為者(使い、受け手)、③使命・餌・課題(明確な目標)の3つです。
この情景を必ず思い浮べることができれば、「やる」が仕事や課題を仕上げる、あるいは、相手に「ものをやる」とか推測できるのではないか。
〇行為者、被行為者がともに「やる」、「やりましょう」と言いうる。どちらが話者であっても成立する言回しと受け止められたのではないか。
〇さらに重要な点は、③やるべき事柄が①行為者、②被行為者ともに「理解しあえる明確な内容」だということ。
〇この2つの条件で、「やる」表現が「共同で、グループで、特定目的のために行動する」意味にも活用しやすくなったのだろう。
話が飛躍するが、
・たとえば、不正行為や犯罪行為が発覚した際には、『なんで、そんなことをしたのか?』ではなく、『なんで、そんなことをやったのか?』を追求する。
・「双方が理解しうる説明」、「納得がいく説明』が必要だからだろう。
・念のために「する」場面の登場人物について考察しておくと、①行為者、②動作目的、の二者(補語)があれば十分な状況説明になる。
だから、行為者だけの「する」説明では、うその理屈で動作を言い繕うかもしれない。