講談社を創業した野間清治氏は、金融には明るくなかったらしい。あるとき教師をやめた妻から退職金の運用について聞かれ、しっかりした銀行に預けるのがいいと答えた。そして勧めたのが何と日本銀行だった▼「あそこなら大丈夫だろう!」と言われた妻は日銀にお金を預けに行って、断られたという(『私の半生』)。個人の資産運用は中央銀行の仕事ではない。同じように気候変動対策も果たして彼らのやるべき仕事だろうか▼日銀が脱炭素に取り組む企業を間接的に支援すると発表した。そうした企業に投資や融資をする金融機関へ、日銀が金利ゼロ%で貸し付けをするという。しかし日銀の使命は、物価の安定そして金融システムの安定のはずだ▼「気候変動は中長期的に経済・物価・金融情勢に極めて大きな影響を及ぼす」と日銀は言うが、そんな論法を使うなら他にも色々当てはまりそうだ。少子化は経済に大きく影響するとして、日銀がお見合いパーティーを支援するといえば笑われるだろう▼それでも環境に資するなら構わないとの意見もあろう。では温暖化対策として原発の建設にお金が重点的に回ったとしたらどうか。議論の分かれるような個別政策は、有権者の選んだ政府が担うのがスジである▼脱炭素で先行した欧州中央銀行などに日銀が追随した面もある。リーマン・ショック後、各国中央銀行は従来の常識を外れた金融緩和を続けてきた。それはあくまで、彼らの使命の範囲内だったように思うのだが。