生きとし生けるもの、例外なく年を取る。かつて凛(りん)とした立ち姿で一世を風靡(ふうび)した千葉市動物公園のレッサーパンダ風太も老境を迎えた▼
2003年に静岡で生まれ、まもなく千葉へ。「立てるんです」という見出しで、その勇姿が本紙の社会面を飾ったのは2歳の春だった。立つこと自体は珍しくない動物なのだが、反響は大きかった。写真集が刊行され、缶コーヒーのCMにまで起用された▼
その風太もいまや人間でいえば80代か90代。昨年暮れには歯の根に膿瘍(のうよう)ができ、主食のササを受け付けなくなった。手術に耐え、入院も経験した。今年5月からは再び来園者の前に姿を見せているが、視力は落ち、やぐらに駆け上ることもなくなった▼
飼育係の水上恭男(みずかみやすお)さん(54)によると、風太は8頭の子をもうけ、孫は22頭、ひ孫15頭、やしゃご5頭。子の多くは南米チリを含む内外の動物園へ送られた。6年前には妻に先立たれ、いまは独りで暮らす。「旺盛な好奇心は若いことと同じですが、人間に心を開かない性分は変わりません」▼
目の前を行く風太の背は丸く、足取りは重い。往時の写真集で見た姿と比べれば、老いは隠しようもない。それでも、その目には開き直ったような独特の自信がみなぎる。「年を取って何が悪い。おぬしもやがて老いる」。そう語りかけてきそうな気がした▼
嘆いても始まらないが、当方もこのごろ体力、知力ともに衰えを感じない日はない。できるなら風太のように潔く堂々と年を取りたいものだ。
2003年に静岡で生まれ、まもなく千葉へ。「立てるんです」という見出しで、その勇姿が本紙の社会面を飾ったのは2歳の春だった。立つこと自体は珍しくない動物なのだが、反響は大きかった。写真集が刊行され、缶コーヒーのCMにまで起用された▼
その風太もいまや人間でいえば80代か90代。昨年暮れには歯の根に膿瘍(のうよう)ができ、主食のササを受け付けなくなった。手術に耐え、入院も経験した。今年5月からは再び来園者の前に姿を見せているが、視力は落ち、やぐらに駆け上ることもなくなった▼
飼育係の水上恭男(みずかみやすお)さん(54)によると、風太は8頭の子をもうけ、孫は22頭、ひ孫15頭、やしゃご5頭。子の多くは南米チリを含む内外の動物園へ送られた。6年前には妻に先立たれ、いまは独りで暮らす。「旺盛な好奇心は若いことと同じですが、人間に心を開かない性分は変わりません」▼
目の前を行く風太の背は丸く、足取りは重い。往時の写真集で見た姿と比べれば、老いは隠しようもない。それでも、その目には開き直ったような独特の自信がみなぎる。「年を取って何が悪い。おぬしもやがて老いる」。そう語りかけてきそうな気がした▼
嘆いても始まらないが、当方もこのごろ体力、知力ともに衰えを感じない日はない。できるなら風太のように潔く堂々と年を取りたいものだ。