「まあ、 アップデートで修正されるとは思いますけどね」
「俺 ゲーム本体はネットに繋いでないんだよ」
近頃のゲームはネットでの対戦や協力プレイができるのがわりと並通になっているので、 ネット経由で追加コンテンツをダウンロードしたり、 不具合なども修正できるらしい。 だが甲 大はそもそも普段はゲームをやらないし、 ネット対戦などにも興味もなかったのでそういった ネット接続を行っていなかった。
「そうですか。 でもまあ、 クリア自体は普通にできますから、 気が向いたならそのままプレイ してもいいかと思いますよ」
「でもなあ··········鍵を持っていないはずの扉が開いたりしちゃうのはなあ」
「なんか冷めますよね」
「冷めるというか······何か不安になってこないか?」
「不安?」
その甲大の言葉は敦己にとっては予想外だったらしく、 彼はきょとんとした顔をしながら訊 き直してきた。
「何が不安なんです?」
「ほら 小説や映画なんかでも 「お約束」 とか 「予定調和」 ってあるだろ? 俺、 そういうの が崩されると気持ち悪くなっちゃうタイプなんだよ」
「ああ·····何となくわかる気がします。 予想外の展開はあった方がいいけど、 お決まりの展開 も欲しいっていうーでも、 それとこれ、 関係あります?」
「あるさ。 ごく普通の一般人だった主人公が、 何の前触れもなく突然超能力を使い出したらお かしいだろ? 普通はそういう展開を見たら冷めるだけかもしれないけど、 俺の場合、 先に不 安感の方が襲ってきちゃうんだ。 本当はそうなるための伏線がちゃんとどこかにあったのに、 見逃していたんじゃないか、 って」
「なるほど、 そういう 「不安」 ですか」
「開いてないはずの鍵が開いているってのは俺にとってはそういう事なんだよ。 主人公が突然、 不可思議な力で鍵を開けちゃった、 ていうのと同じなんだから」
「はあ······」
敦己は頷いたが、 あまり納得していない様子だった。 甲大はさらに説明を補足しようとした が、 今が勤務中である事を思い出すと同時に、 そもそもなんで自分はこんなどうでもいい事を 熱弁しているんだという思いに駆られ、 無言でPCに向き直り仕事に戻ることにした。