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______透明˙._________________>> 她不是安徒生

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她不是安徒生。
她是一个童话作家。
她的文字单纯,单纯到几乎透明。
她深居简出,童话的样子如同她的人。
她"如同自家后院角落的一朵蒲公英",清淡隽美。
她的名字叫安房直子。


1楼2010-08-29 16:06回复

    我在贴吧找到的。
    ハンカチの上の花畑。
    《手绢上的花田》 日语版。
    希望你能喜欢。


    2楼2010-08-29 16:08
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      「こ、び、と--」
      かすれた声でそうつぶやくと、目をまんまるにして、その小人が、はしごをおりてくるのを见つめていました。
      それは、太った男の小人でした。大きな前かけをして、黒い长ぐつをはき、よく见ると、その长ぐつのうらには、ちゃんと、ギザギザのゴムまではってあります。白いもめんの手袋をはめ、わらのほつれた麦わらぼうしをかぶり--なにもかも、人间と同じです。
      「これが、菊酒をつくる小人です」
      と、おばあさんは、ささやきました。
      小人は、ハンカチの上に、ぴょんとおりると、上をむき、両手を口にあてて、なにかさけぶかっこうをしました。
      すると、こんどは、つぼの中から、女の小人がでてきました。それから、子どもの小人が三人。
      小人の一家は、みんなおそろいの前かけに麦わらぼうし、そして、黒い长ぐつをはいています。
      (なるほど。こりゃすてきだ)
      邮便屋は、すっかり感心しました。
      ハンカチの上におりた五人の小人は、前かけのポケットから、小さな小さな绿色のなえを取りだして、植えはじめました。たぶん、これから、このハンカチの上で、なにかふしぎな植物がそだつのでしょう。
      小人たちのポケットからは、まるで手品のように、あとからあとから、なえがでてきます。そして、みるみるうちに、ハンカチの上は、绿の畑になりました。
      「これはみんな、菊のなえですよ」
      と、おばあさんがささやきました。
      「おどろいたねえ--」
      邮便屋は、ため息をつきました。
      「ハンカチに、菊畑ができるなんて--」
      なだお酒ものまないのに、邮便屋は、うかれてきました。きゅうに、楽しくて楽しくてたまらなくなってきたのです。それは、子どものころ、おもちゃの兵队を、机の上にならべたときの気持ちににています。それから、砂场で、小さな线路やトンネルをつくり、そこに电车を走らせたときの気持ちにもにています。ああ、そういう小さな世界にさよならをしてから、いく年すぎたでしょうか。邮便屋の毎日といったら、くる日もくる日も、赤いバイクで町じゅうをかけめぐり、たまの日曜日には、ねころがって、空を见るのがせいぜいでした。
      (ずいぶん长いこと、小人のことなんか、考えたこともなかったな。だけど--まさか--、まさか、ほんとにいるとは、思わなかったよ)
      邮便屋は、なんだか、わくわくしてきました。
      やがて、菊のなえは、少し大きくなり、けしつぶほどのつぼみがぽつぽつとついているのがわかりました。
      「あのつぼみが、ひらくんですよ」
      


      6楼2010-08-29 16:10
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        おばあさんが、ささやきました。
        と、みるみるうちに、つぼみがひらきはじめました。あっちにひとつ、こっちにひとつ--、まるで、夜の町につぎつぎとあかりがともっていくのを、高い空から见ているようなぐあいです。


        7楼2010-08-29 16:11
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          白ぎく、黄ぎく、紫ぎく--。
          たちまち、ハンカチの上は、色とりどりの菊の花畑になりました。
          すると、五人の小人は、いっせいにぼうしをぬぎました。そして、花をつみはじめたのです。つんだ花は、どんどんぼうしの中へたまっていきます。ぼうしがいっぱいになると、はしごを、するするとのぼって、花をつぼの中へあけます。これは、なかなかたいへんな仕事でしたが、小人たちは、楽しそうに働きます。
          「ふうん。この人たちは、働き者なんだねえ」
          邮便屋は、すっかり感心しました。すると、おばあさんは、とくいになっていいました。
          「そうですとも。この人たちは、ただの小人じゃない、お酒の精なんだもの」
          「お酒の精--」
          「そう。たとえば、ヨ-グルの中には、ヨ-グルの精がいるし、パンの中にも、パンの精がいる。それから、ぬかみその中にだって、小人がいて働いている。それと同じことなの。つまりこの人たちは、菊酒の精なんですよ。いつも、こんなそまつなかっこうで、働くことだけを楽しみに生きているんです。だけど、もし、この人たちが、きれいな服を着いたとか游んでくらしたいとか思いはじめたら、もうお酒の精ではなくなってしもうんです。お酒をつくる力を失って、ただの小人になってしまうんです」
          「なるほどねえ。そんなこと、ぼくは、今までちっとも知らなかった」
          邮便屋はため息をつきました。
          やがて、ハンカチの上の菊の花は、すっかりつみ取られ、五人の小人は、ぼうしをかかてえ顺じゅんに、つぼの中へ帰っていくところでした>栅位à婴椁韦嗓盲丹辘悉い盲皮い毪膜埭沃肖--。
          これから、どうなるんだろうかと、邮便屋は思いました。
          おばあさんは、ハンカチに口をつけて、ふ-っと、まるで、ろうそくをふき消すように息をかけました。すると、小さな菊畑は、きれいに消えて、テ-ブルの上には、古いつぼと、白いハンカチが、なにごともなかったようにおかれているのでした。
          まったく、ハンカチの上には、なにひとつ残っていません。すみっこの、青いハ-トのししゅうだけが、小さな点のようにうきあがって见えるだけでした。
          おばあさんは、そのハンカチを、きちんとたたんで、ふところにしまうと、こんどは、さかずきをふたつ用意しました。そして、つぼをゆびさして、さっきと同じことをいうのでした。
          「さあ、これが、うちのとっときのお酒でねえ。菊酒なんですよ。」
          それからおばあさんは、静かにつぼを持ちあげ、ふたつのさかずきに、とくとくと、お酒をそそいだのでした。
          たしかに、たしかに、それは、お酒でした。いいにおいのする、とろりとしたのみものなのでした。
          邮便屋は、しばらくの间、魔法にかけられたように、ぽかんとしていました。すると、おばあさんは、ゆっくりと、さかずきいっぽいのお酒を、のみほしました。それから、目をつぶって、こんなことをいいました。
          「これは、いいお酒ですよ。これをいっぱいのむと、心が晴ればれしますよ。さあさあ、あんた、えんりょしないで、のんでごらん」
          すすめられるままに、邮便屋は、おそるおそるお酒をのみました。
          それは上等のお酒でした。
          いつでしたか、局长さんの家で、フランスのぶどう酒を、ごちそうになりましたが、それより、もっとよいお酒でした。
          ほんのりと、花のかおりがします。
          一ばいのんで、目をつぶると、一面の菊の花畑が、うかんでくるのでした。花の上に、のどかな秋の阳が、ふりそそいでいます--ふと、邮便屋は、じぶんが今、菊畑のまん中にすわっているような気がしました。色とりどりの花の上を、风がさあっとわたっていきました。
          「なるほどねえ。こんなお酒は、はじめてだ」
          


          8楼2010-08-29 16:11
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            こうして、えみ子さんは、良夫さんの、せまいアパートへひっこしてきました。
            お料理もせんたくも、买物もじょうずな、よいおよめさんでした。そして、なによりも、じょうずなのは、おそうじでした。
            ひっこしてきた次の日、えみ子さんは、あのせまいへやを、すみからすみまで整とんしたのです。
            もちろん、おしいれの中も。
            夕方、良夫さんが、仕事から帰ってきますと、えみ子さんは、いち早くたずねました。
            「ねえ、こんなつぼ、なににつかうんです?」
            えみ子さんは、菊酒のつぼをかかえて、おしいれの前に、つったっていました。
            「あんまり古ぼけていて、花びんにもならないし、台所においてもじゃまだし、ねえ、こんなの、すててしまったら?」
            これを闻いて良夫さんはあわてました。
            「そ、そんなわけにはいかないよ。これは、だいじなあずかり物なんだから」
            「まあ、いったいだれが、こんな物あずけたんです?」
            「それは、その。。。。。。
            良夫さんは、口ごもりました。酒仓のおばあさんの话をしたら、それからそれへと、小人のことにまで、ふれなければなりません。おばあさんは、いいましたっけ。小人のことは、たとえ、およめさんにも 、ひみつにしまくてはいけないと。良夫さんは、す早く、つぼを取りもどすと、
            「なに、その、友だちからあずかったんだ。ところが、なかなか取りにこないんだ、でも、いったん人からあずかった物は、すてたり、なくしたりするわけにいかないだろ?」
            「それは、そうねえ」
            と、奥さんは、うなずきました 。良夫さんは、ほっとして、つぼを、おしいれの中にしまいました。が、どうもしんぱいなので、こんどは、たなの上にあげました。それでも、また気になって、とだなの中にいれました。
            えみ子さんは、これを、じっと见ていて、なにかわけがあるにちがいないと思いました。けれど、良夫さんは、そのあとけっして、つぼの话をしません。えみ子さんが、ちょっといいかけると、だまりこんで、ふきげんな颜つきになるのでした。
            そうして、何日たっても、何周间たっても、つぼは、とだなの中に、しまわれたままでした。
            このことを、じつは、良夫さんのほうも、気にしていました。とても、いらいらしながら。
            およめさんがきてからというもの、良夫さんは、菊酒をつくることが、できなくなってしまったのです。家に帰っても、ひとりになることが、まったくなくなってしまったのですから。
            (あれを、ほんの一口のめたらなあ。。。。。。つかれがふきとぶんだがなあ。。。。。。)
            良夫さんは、毎日、そう思いました。そして、土曜の午后か日曜日に、奥さんが、ほんのちょっと外出してくれたらいいと思いました。
            (そうなんだ。ほんの十分か十五分で、菊酒は、できるんだから)
            


            11楼2010-08-29 16:12
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              三 片方の长ぐつ
              ある日曜日のこと。
              良夫さんは、奥さんに、こんなことを、いってみました。
              「たまに、花屋へいって、お母さんにあってきたらどう?」
              すると、えみ子さんは、わらいました。
              「ああら、きのういってきたばかりよ。新しいばらが、どっさりあったわ」
              「ほう、ばらか。いいね。ひとたばほしいね」
              「じゃあ、あした、もらってきましょう」
              「いや、きょうほしいな、今すぐほしいな」
              「まあ、どうしてそんなにいそぐんです?」
              「だ、だって、きょうは日曜日じゃないか。たまに、テーブルに花をかざって。。。。。。そうそう、ひさしぶりに、お酒をのもうじゃないか」
              これを闻いて、えみ子さんは、にっこりわらいました。
              「まあすてき!それじゃすぐ、お酒、买ってきましょう」
              「うや、お酒は、ぼくが用意するよ。とっときのがあるからね。だから、早く、ばらをもらっておいで」
              すると、えみ子さんは、よろこんで、花屋へでかけていきました


              12楼2010-08-29 16:12
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                「さあー、仕事だ、仕事だ」
                良夫さんは、いそいで、あのつぼを取りだすと、机の上におきました。それから、その横にハンカテをひろげて、そっとよびました。
                「出ておいで    出ておいで
                菊酒つくりの    小人さん」
                あとは、いつもとまったく同じです。五人の小人は、ハンカチの上に、いつもと同じ菊畑をつくり、花を、いつもと同じようにつみ取って、つぼの中に运びました。
                「早く、早く」
                良夫さんは、両手で、せかせかと、机をたたきました。
                花屋までは、歩いて五分しかかかりません。えみ子さんが、花屋で、ゆっくりおしゃべりでもしてくれればよいのですが、もし、フルスピードでいって、すぐもどってきたりしたら……。
                「早く早く、ほかの人间に见つかったら、たいへんなんだ」
                けれど、小人たちには、良夫さんの声などまったく耳にはいらないようすでした。はしごをのぼりおりする足どりは、少しも早くなりません。
                「ほら、いそげいそげ、もう一息だ」
                そして、このときー。
                ドアのところで、もう、えみ子さんの声がしたのです。
                「ただいまー」と
                良夫さんは、ひやりとしました。
                「早かったでしょ。大いそぎでいってきたの。ほーら、こんなにきれいなばら」
                えみ子さんの、明るい声が、へやじゅうにひびきました。
                小人たちは、やっと仕事を终えて、四人が、つぼの中に消え、さいごのひとりが、はしごをのぼりかけているところでした。
                (たいへんだ!)
                このとき、良夫さんは、残っているひとりの小人を(それは、子どもの小人でした)指でつまむと、つぼの中へおしこみました。こんならんぼうなことをしたのは、はじめてでしたから、胸がドキドキなりました。それから、ハンカチに、す早くふっと息をかけると、やっとふりむいで、目を白黒させながら、
                「や、おかえり」
                と、いったのです。
                えみ子さんは、大きな花たばをかかえて、むこうにたっていました。
                「ほう、みごとなばらだ。すばらしいじゃないか」
                良夫さんは、おおげさにおどろいてみせましたが、そのとき、からだじゅう、びっしょりとあせをかいていました。
                その晩は、白い布をかけたテーブルの上に、ばらの花と、たくさんのごちそうが、ならびました。そして、あの古いぼけたつぼとー。
                おいしい菊酒をのんでから、いみ子さんは、きょうはいったい、なんの记念日だったかしらと思いました。そして、どう考えても、なんのことはない、ただの日曜日だったことに気づくと、なんだか、やっぱりおかしいなと思いました。
                


                13楼2010-08-29 16:13
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                  月曜日の朝、おそうじをするときに、えみ子さんは、机の 下に、白いハンカチが、くしゃくしゃにまるめられているのを见つけました。ひょっとひろいあげてみますと、ハンカチの中から、小さな黒いものが、ぽろりと落ちたのです。
                  なんと、それは,长ぐつでした。
                  ほんの、つめの先ほどの。けれど、ほそい金のチャックがついていて、うらには、ギザギザのゴムまではってあります。
                  (まあ、こんな物が、どうして……)
                  えみ子さんは、この片方のくつを、手のひらにのせて、まじまじとながめました。
                  (まるで、小人のくつみたい……)
                  ふと、えみ子さんは、じぶんが、别の小さな世界へひきこまれていくような気がして、くらくらしました。机の前にすわって、ずいぶん长いこと、长ぐつを见つめていましたが、やがて、ゆっくりと、こう思いました。
                  (これは、たしかに、小人の物だわ)と。
                  それから、はっと颜をあげて、
                  (あのひと、もしかしたら、小人を知りあいなんじゃないかしら……)と。
                  えみ子さんは、まだほんの少し、小人を信じていました。
                  むかし、花屋の小さな女の子だったころ、一度だけ、小人を见たことがあったのです。
                  あれはたしか、パンの小人でした。
                  つくりかけのパンの中にいたのですから。
                  お母さんが、大きなまな板の上で、粉をこねていたとき、その指の间に、白いものが、ちらっと働いたのを、えみ子さんは、たしかに见たのです。
                  はじめ、それは、お母さんの指のかげのように思われました。が、お母さんが、バターを取りに、ちょっとそこをはなれたときにも、ちゃんといたのです。
                  小人は、白い服を着て、白いぼうしをかぶっていました。よくよく目をこらすと、まな板の上には、そんなのが五人も六人もいて、めまぐるしく働きまわっていたのです。手に手に、麦わらのような、ほそい棒を持っていました。ときどき、それを口にくわえては、粉の中に、空気をいれているのです。
                  「うわあ」
                  えみ子さんは、大きな声をあげました。
                  「お母さん、早くきて、早く早く」
                  その声を闻いて、お母さんが、かけてきました。
                  「どうしたの、えみちゃん」
                  お母さんは、えみ子さんの颜を、のぞきこみました。えみ子さんは、胸をドキドキさせて、
                  「小人が」
                  と、そこまでいって、目を粉の上に近づけたのですが、小人のすがたは、もう、どこにもありませんでした。お母さんは、
                  「おとぎ话の読みすぎじゃないの」
                  と、わらいました。
                  けれど、焼きあがったそのパンが、とびきりよくふくらんでいるのを见て、えみ子さんは、これはやっぱり、小人の働きなんだと思わずには、いられませんでした。
                  (パノをつくる小人って、きっといるんだわ。もしかしたら、どこかにおおぜい集まって、小人の国をつくっているのかもしれない)
                  えみ子さんは、そんなことを考えました。
                  もう、十年以上前のあの日のことを、えみ子さんは、今、まざまざと思いだしたのです。そして、小さな长ぐつをのせた手を、とじたりひらいたりしながら、たしかに小人はいるのだと、はっきり感じたのでした。
                  けれども、その小人のくつが、どういうわけで、片方だけ、このはやに、まぎれこんだのか、それは、どうしても、わかりません。そして、もうひとつ、このへやには、どうもわからないものがありましたっけ。
                  あの、へんな古いつぼ。
                  この间まで、からっぽだったつぼの中に、きのうは、お酒がはいっていたのです。それも、菊酒という、びっくりするほどおいしいお酒が。
                  小人の长ぐつと、古いつぼー。
                  その日一日、えみ子さんは、ぼんやりすわって、考えこんでいました。
                  


                  14楼2010-08-29 16:13
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                    さて、それから一周间たちますと、あの菊酒のつぼは、またからっぽになりました。
                    やっぱり、日曜日の朝 、良夫さんは、奥さんにいいました。
                    「ねえ、ちょっと、买物にいってきてくれないか」
                    「なにを买うんです?」
                    「たばこ」
                    これを闻いて、えみ子さんは、はっと胸をおさえました。それから、もう、サンダルをかたちんばにつっかけてアパートをとびだすと、たばこを买って、风のような速さで、もどってきたのです。そして、ドキドキする胸をおさえて、そーっとドアをあけると、足音をしのばせて、へやへはいりました。
                    このとき、良夫さんは、うしろむきで、小さな机の前にすわっていました。えみ子さんは、ぬき足さし足近づいていきました。そして、うしろから、そっと、机の上を、のぞきこみました。
                    ああ、そこには、たしかに、小人が五人ーそろいのぼうしに、そろいの前かけ、そしてそろいの长ぐつをないて、ハンカチの上を、働きまわっていたのでした。けれど、子どもの小人が、ひとりだけ、片足はだしでした。
                    (やっぱり……)
                    えみ子さんは、ポッケトの中の、小さな长ぐつを、ぎゅっとにぎりました。するとこのとき、えみ子さんの心に、子どものころの胸のときめきが、わくわくと、よみがえってきたのです。
                    「すてき!」  
                    おもわず、えみ子さんは、さけびました。
                    良夫さんは、ぎょっとしてふりむくと、
                    「だめだ!」
                    と、いきなり、机の上に、おおいかぶさりまいた。そして、ふりしぼるような声をあげました。
                    「见ちゃいけない、见ちゃいけない……だめだ、だめだ……」
                    そのせなかにむかって、えみ子さは、晴ればれといいました。
                    「もう、见てしまったわ」
                    それから、だんなさんの横にすわって、静かにささやきました。
                    「なんてすてきなことかしら。小人が、ほんとにいたなんて」
                    けれど、このとき、良夫さんの颜は、まっ青でした。目を大きくひらき、あらい息をしながら、とぎれとぎれに、こういいました。
                    「とうとう、见られてしまった……とうとう……とうとう……」
                    えみ子さんは、きょとんと、良夫さんを见つめました。
                    良夫さんは、うつむいて、ぼそぼそと、话しはじめました。きく屋の酒仓で、ふしぎなおばあさんにあったこと、そして、つぼをあずかるとき、おばあさんとしたやくそくのこと。
                    「やくそくは、ふたつあったっけ。小人を、だれにも见せないこと。それから、菊酒で、金もうけをしないこと。それをやぶると、ぼくの身の上に、よくないことがおこるって……
                    そういいながら良夫さんは、やっぱり、こんな物は、あずかるんじゃなかったと思いました。そると、きゅうに、胸がドキドキしてきて今にも病気になるような気がしました。それとも、きゅうにびんぼうにでもなるのでしょうか、それとも、それとも……ああ、これからいったいどんなさいなんがくるというのでしょう。胸いっぱいに、黒いものがひろがって、良夫さんは、头をかかえました。
                    「ほんとに、あずかるんじゃなかった。同じ家に住んでひみつが守れるわけがないものなあ」
                    すると、えみ子さんは、こういいました。
                    「だいじょうぶよ。あたし、小人を见るのは、今がはじめてじゃないもの。そうそう、子どものころに见た小人も、やっぱりこんな大きさだったわ。それは、パンの小人だったけれど」
                    えみ子さんは、なつかしそうに、ハンカチの上を见やりました。
                    「ほかの小人を见たのかい?」
                    良夫さんは、いつかの、おばあさんの话を思いだしました。
                    「そ。お母さんが、粉をこねているとき、ちらっと见えたの。あたしは、前から小人を知ってたわ。だから、今になって、もう一度この人たちを见たからって、ちっともたいへんなことじゃないと思うの。ね、これ以上、ほかの人たちに、知られなければいいのよ」
                    「そうだろうか」
                    と、まだ青い颜をしている良夫さんにむかって、えみ子さんは、明るくわらいました。
                    「ええ。ふたりがだまっていれば、それでいいのよ。そんなことより、ねえ、この人たちと、なかよくなること、考えましょうよ」
                    えみ子さんは、エプロンのポケットから、あの小さな长ぐつを取りだしました。
                    「これ、このひとのでしょ」
                    良夫さんは、はっとしました。この前、じぶんが、あわてて小人をつまみあげたときに、片方の长ぐつが、ハンカチの上に落ちたことに、やっと気がついたのです。
                    えみ子さんは、长ぐつをそっと、菊畑のすみこにおいて、
                    「あなたのくつ、お返しするわ」
                    と、子どもの小人に、ささやきました。
                    けれど、小人たちは、なにも答えませんでした。それどころか、上を见ることさえ、しなかったのです。五人は、それぞれの小さな麦わらぼうしに、せっせと、菊の花を、集めていました。なにごともないように……。
                    ハンカチの上の小人たちにとって、人间の声は、それこそ、あらしか、かみなりの音ほど大きく感じるでしょうに。
                    「この人たち、ことばが、わからないのかしら」
                    と、えみ子さんは、首をかしげました。
                    小人たちは、菊の花を、すっかりつみ取ると、ぼうしをかかえて、静かにつぼの中へ帰っていきます。さいごに、小人の子どもは、えみ子さんのおいた长ぐつを、すましてはいて、やっぱりゆっくりと、はしごをのぼっていきました。
                    良夫さんは、つぶやきました。
                    「そうだ。きっと、小人のことばと、人间のことばは、ちがうんだ。この人たちにわかるのは、出ておいで、出ておいでっていう、あのよびかけだけなんだ。」
                    「そのよびかけが、あの人たちには、どんなふうに闻こえるのかしら」
                    「そうだな。远い风の音みたいに闻こえるんだろ。ゴーって」
                    「それとも、なみなりみたいなものかもしれないわねえ」
                    そんなことを话しているうちに、ふたりは、だんだん楽しくなしました。
                    


                    15楼2010-08-29 16:13
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                      「…………」
                      「その菊酒を、こんどから、うちに売ってほしいんです。」
                      「売る?そ、それは、だめです」
                      さすがに、えみ子さんは、あわてました。いそいで、こうつけたしました。
                      「あれは、ほんのちょっとずつ、いなかから送ってくるお酒ですから、売るなんて、そんなことはもう……」
                      そのえみ子さんの话を、料理店の主人は、さえぎりました。
                      「どうでしょう、ひとびん、五千円で」
                      (五千円……)
                      えみ子さんは、コクリとつばをのみました。それから、心の中で、そっとくり返しました。
                      (ひとびん、五千円……)
                      ほんとうのところ、えみ子さんが、今一番ほしいのは、どんなお礼の品物よりも、お金だったのです。
                      ついせんだって、新闻に、家の広告が、のっていましたっけ。小さな庭つきの家でした。かわいいテラスの奥に、まっ白いしょうじがかがやいていました。そのとなりは、出窓のある洋间、それから、小さなポーチつきのげんかん。
                      「ねえ、こんなおうち、いいわねえ」
                      ため息まじりに、えみ子さんが、ささやいたら、だんなさんは、横目でそれを见て、
                      「お金がなくちゃ、どうしようもないさ」
                      と、いいましたっけ。
                      まったく!家のねだんには、ゼロが、いくつついていたでしょうか……。
                      今、それを思いだして、えみ子さんの心は、ゆらんとゆれました。それから、
                      (いけない、いけない)
                      と、目をつぶりました。が、その耳に、料理店の主人お声は、朝のニュースのように、さわやかに流れこんできたのでした。
                      「ねえ、どうでしょう奥さん、五千円で、毎日、ひとびんずつわけていただけないでしょうか」
                      (一日五千円ずつ……)
                      えみ子さんは、どぎまぎしました。
                      「ええ……い、いいえ……あのう、あのう」
                      すると、料理店の主人は、ポッケトから、まっ白い封筒を取りだして、まるで、话がきまったようにきっぱりといったのです。
                      「これは、きょうの分です。とりあえず、ひとびびんいただいていきましょう」
                      おもわずえみ子さんは、封筒を受け取りました。それから、へやへかけこんで、机の上にある、今できたばかりの菊酒を、大いそぎで、ガラスのびんにうつしました。手が、ぶるぶるふるえて、お酒は、ずいぶんこぼれました。いけない、いけないと、心のすみでささやく声がありました。けれど、あの庭つきの新しい家が、ちらっと头にうかんだとき、えみ子さんは、もうためらわずに、げんかんへでていきました。そして、びんをわたすとき、小声でささやきました。
                      「あのう、このことは、とうぶん、だれにもないしょにしておいてくださいね」
                      料理店の主人が帰ると、えみ子さんは、ドアをしめて、カギをかけました。それからへやのまん中に、ぺたんとすわって、胸をドキドキさせながら、あの封筒を、あけてみました。
                      中には、たしかに、五千円札が一枚ー。
                      えみ子さんは、おもわず、まわりを见まわして、お金を、タンスのひきだしにしまいました。が、どうもしんぱいなので、镜のうしろにいれました。それでも、また気になって、日记帐の中にはさみました。
                      (たいへんなひみつが、できちゃった)
                      このことを知ったら、きっと、良夫さんは、おこるでしょう。おばあさんとのやくそくを思いだして、まっ青になるでしょう。
                      けれどもこのとき、えみ子さんは、小人の奥さんのことお思いだしていました。
                      (でも、あたしは、あの人に、ちゃーんとおくりものをしているもの)
                      えみ子さんは、これからもずっと、あの人に、ビーズをプレゼントするつもりでした。そして、菊酒をお金にかえたことは、それでなんとかゆるされるような気がしました。
                      今 、えみ子さんの胸の中には、大きな梦が、ふくらみかけていました。この、ひと间きりのアパートを、さっさとひきはらって、庭つきの気持ちのよい家へひっこすことです。
                      (何年で买えるかしら)
                      えみ子さんは、心の中でこっそりと、これからたまるお金の计算をしていました。
                      


                      18楼2010-08-29 16:15
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                        「たいへん!」
                        えみ子さんは、多あわてで、ぞうきんを、さがしました。そのあいだにも、菊酒は、まるで、泉がわきでるように、とくとくと、あふれつづけ、ちょうど、つぼ一ぱい分、机の上に、こぼれてとまりました。
                        ぬれた机の上をふきながら、えみ子さんは、これは、どういうわけかしら、と、长いこと考えましたが、やがて、なるほどと、うなずきました。
                        あふれるのは、あたりまえです。つぼの中では、いつもの二倍のお酒が、できたのですから。
                        (そうだわ。あふれる前に、多いそぎで、ほかのびんに、うつせばいいだわ)
                        えみ子さんは、いく度も、うなずきました。
                        そして、次の日には、一度にふたびんのお酒をとることに、やっと成功したのでした。
                        こうして、えみ子さんは、一日ふたびんずつ、料理店に、菊酒を売りはじめました。料理店の主人は、とてもよろこびました。
                        「ありがとうございます。これからも、よろしくお愿いします。うちでは、いくらでも买わせていただきますから」
                        (いくらでも!)
                        この最后のことばが、えみ子さんの耳に残って、どうしても、はなれませんでした。
                        いくらでも……そうです。料理店は、今の五倍でも十倍でも买ってくれるというのです。えみ子さんの胸は、うずうずと、なりました。
                        (そうだわ。こうなったら 、思いきり多きくやってみるべきだわ)
                        次の日、つぼの横には、ハンカチのかわりに、ふろしきが、ひろげられました。その次の日には、もっと大きいふろしきが。そして、その次の日には、テーブルかけが!
                        テブールかけは、机の上にひろげきれず、えみ子さんの仕事场は、たたみの上に変わりました。
                        テブールかけの畑は、小人にとって、だいぶひろいようでした。
                        小人たちは、なえを植えるとちゅうで、かならず一回あせをふき、花をつむとちゅうで、また一回あせをふきました。これまでは、楽しそうに、ゆったり働いていましたのに、こんどは、わきめもふらず、めちゃくちゃに、働くようになりました。それでも、仕事が、すっかり终わるまでには、一时间近くかかるのです。この一时间が、小人たちにとっては、一周间か十日の长さに思えるのではないでしょうか。はしごをのぼって帰っていく小人たちの足どりは、少しふらついていました。
                        それでも、小人の一家は、よく働いてくれたのです。たぶん、あのビーズ玉のために。
                        (そ。この人たち、楽しみができたんだわ。前は、ただ机械みたいに働くだけだったもの。楽しみができるのは、とてもよいことだわ)
                        そして、えみ子さんのほうも、楽しみができたために、前より、ずっといそがしくなりました。テーブルかけの上の菊畑を、ふき消す仕事ー。これは、今までのように、ただふーっと。軽く息をかけるような、かんたんなわけにはいきません。すっかり终わると、もう息切れがして、へとへとでした。それから、できあがったお酒を、あふれてこないうちに、じょうずに、びんにうつすのが、また、大仕事でした。大きなエプロンをかけて、菊酒をびんにうつすとき、えみ子さんは、じぶんが、酒屋のおかみさんにでもなったような気がしました。
                        こうして、えみ子さんが、菊酒を、お金にかえるようになってから、ずいぶん日がたちました。
                        なにごともなく。良夫さんにさえ、知られずに……。りこうなえみ子さんは、良夫さんが、家にいる日曜日だけは、もとの小さいハンカチですまして菊酒をつくったのでした。
                        そして、このなにごともないことに、はじめ、えみ子さんは、ひそかに安心しました。一日が无事に终わるたびに、ほっと胸をなでおろしました。が、やがて、えみ子さんは、それがあたりまえだと思うようになりました。このことは、小人とじぶんだけのとりひきなのだと。小人たちが、ビーズをもらって、よろこんで働いてくれるなら、ほかのだれにも、えんりよはいらないのだと。
                        


                        20楼2010-08-29 16:15
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                          五 おどりをおどる小人たち
                          こうして、あの日からーあの寒い十一月の日ぐれのできごとがあってから、二年がすぎました。
                          良夫さんの配达区域は、また、あの东通りにもどりました。
                          ずいぶんひさしぶりに、良夫さんは、この通りにきました。市电が、ゴーっと走る音を闻いたとき、良夫さんは、あの夕ぐれのことを、ありありと思いだしました。
                          (あのおばあさん、もう、もどっているかな)
                          なんだかきゅうに、あの人が、なつかしくなりました。じぶんを信用して、だいじな菊酒のつぼをあずけてくれた人です。そしてじぶんたちは、あのつぼおかげで、ずいぶん楽しい思いをしました。
                          (ちょっとよってみようか)
                          と、良夫さんは思いました。
                          (もし、おばあさんがもどっていたら、あしたにでも、つぼを返しにこよう)
                          良夫さんは、通りの家々に、手纸をくばりながら、少しずつ、酒仓のほうへ近づいていきました。あの酒仓は、たしか、かどのくだもの屋のあたりから、远くななめに见えるはずでした。大きなビルにはさまれて、まるで、そこだけとり残されたように、すすけた酒仓が、ぽつんとたっているはずでした。ところが、くだもの屋まできて、良夫さんは、はっと息をのみました。
                          ないのです。
                          酒仓は、かげもかたちも、ないのです。酒仓のあった、ちょうどその位置には、新しいビルが、たちかけていました。太い鉄の骨组みの上に、○○建设という白いおおいが、バサバサと风になっていました。
                          (酒仓がない……ない……)
                          良夫さんは、心の中で、切れぎれに、くりかえしました。それから、ふるえる手で、そのあたりを、ゆびさしながら、くだもの屋の店员に、たずねました。
                          「あそこに、古い酒仓があったでしょう?あれ、どうなったんです?」
                          すると、くだもの屋は、
                          「ああ、あの酒仓なら、だいぶ前に、こわされましたよ」
                          「ほう……」
                          良夫さんは、ひょっとして、おばあさんは酒仓を、人に売ってしまったんだろうかと思いました。首をかしげて、また、バイクにまたがると、信号をわたり、そのたちかけのビルに、近づいていきました。
                          「もしもし、ここに、なにができるんです?」
                          邮便屋は、工事现场で、ヘルメットをかぶった人に、たずねました。
                          「ねえ、このビルは、だれのものなんです?」
                              すると、その人は、
                          「さあね」
                          と、首をかしげました。それから、
                          「くわしいことは、よく知らないが、もと、ここには、古い酒仓が、あったのさ」
                          と、いいました。
                          「ええ。知ってますよ。仓の中にはビロードのいすがあって、ちょっとした応接间みたいになっていたでしょ」
                          「おうせつまあ?」
                          ヘルメットの人は、きょとんと、闻きかえしました。邮便屋は、うなずきました。
                          「ええ。ぼくは、二年ほど前に、その酒仓に、手纸を配达したんですよ。そのとき、中にいるおばあさんから、ちょっとしたあずかり物をしましてねえ」
                          すると、ヘルメットの人は、大きな口をあけて、
                          「ばかいっちゃいけない!」
                          と、さけびました。
                          「あんな中に、人が住んでるわけがないじゃないか。おれは、仓をこわすとき、ちゃーんと、この目で见たんだ。中は、からっぽだったよ。タルひとつ、ありゃしなかった。まわりのかべがボロボロで、もうひどいものだったよ」
                          これを闻いて、邮便屋は、はげしく首をふりました。
                          「そーんなはず、ないですよ」
                          大声でそうさけんで、はっと気がつくと、工事现场で働いている、おおぜいの人たちが、仕事の手を休めて、みんな、こちらを见ているのです。にやにやわらっている人もいます。首をかしげている人もいます。邮便屋は、きまりが悪くなって、いそいでバイクにまたがりました。


                          21楼2010-08-29 16:16
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                            东通りを、まっすぐまっすく走りながら、邮便屋は、じぶんは、あのとき、梦をみたのかなと、思いました。
                            (うん。あんな酒仓に人が住んでるなんて、第一おかしいと思ったんだ……)
                            その夜、アパートに帰って、良夫さんは、えみ子さんに、きょうのできごとを、すっかり话しました。
                            すると、えみ子さんの颜は、ぱっとかがやきました。
                            「それじゃ、もう、そのおばあさんは、帰ってこないわね。小人は、ずうっと、あたしたちのものだわね。あたしたちが、好きなように使っていいし、できた菊酒も、好きなようにしていいのね」
                            「ああ、たぶん……」
                            たぶん、そういうことになるのかなと思いながら、良夫さんは、小さくうなずきました。すると、えみ子は、ほーっと息をついて、
                            「よかったわ」
                            と、いいました。
                            「ほんとによかったわ。これで、あたしのしんぱい、すっかり消えたわ。ああ、これまで、どんなに心が重かったことでしょう。いつか悪いことが、おきるんじゃないかと思って、そればかり気にしながら、菊酒を売っていたのよ」
                            「売っていた!」
                            良夫さんは、ぎょうてんしました。
                            「ほ、ほんとかい。どうして、そんなことしたんだい。あれほどいっといたじゃないか。菊酒で、金もうけをしちゃいけないって」
                            けれど、えみ子さんは、平気でした。まるで、ひまわりの花みたいに明るい颜で、
                            もう帰れるわけがないもの。悪いことがおきるなんて、あれは、みんなうそよ。そのしょうこに、お酒を売りはじめてから、もうずいぶんたつけど、なにも変わったことは、ないじゃないの。それどころか、ねえ、これを见て」
                            えみ子さんは、いそいそと、タンスのひきだしをあけて、预金通帐をだしました。
                            「ほーら、もう、こんなにお金が、たまっているの」
                            まったく、通帐の中に书きこまれた数字には、ゼロが、いくつついていたでしょうか。良夫さんは、目をチラチラさせながら、それをかぞえました。それから、ふうっと、大きな息をついて、おくびょう者はそんだなと、思ったのでした。えみ子さんは、とくいそうに、つづけました。
                            「それは、あたし、小人たちに、ビーズをプレゼントしてるの。そのせいで、あの人たち、とてもよく働いてくれるの。今じゃ、ハンカチのかわりに、テーブルかけを使って、前の五倍も菊酒をつくってるわ」
                            良夫さんは、すっかり感心して、いいえ、感心しすぎて、もう、あきれてしまいました。そして、たったひとこと、
                            「きみは、たいしたものだねえ」
                            と、つぶやいただけでした。
                            


                            22楼2010-08-29 16:16
                            回复
                              さあ、それからというもの、良夫さんは、菊酒つくりに、とても热心になりました。なぜって、菊酒を売ってできるお金は、邮便局からもらう月给の何倍にもなったのですから。
                              そればかりでは、ありません、えも子さんとふたりで、小人たちに、お礼のおくりものをすること、そして、ひととき、この小さな人たちの世界にひたりきることが、もう、たとえようもないほど楽しくなったのでした。
                              小人が全员、おそろいの首かざりをかけたとき、えみ子さんは、こんどは、ぼうしをプレゼントしたいといいだしました。
                              「いつも、あんな麦わらぼうしじゃ、気の毒でしょ。ねえ、どうかしら、五人おそろいでしゃれたフェルトのぼうしなんか」
                              「ああ、それはいい思いつきだ。ついでに、くつもつくってあげるといいよ。あんな长ぐつじゃなくて、軽い、しゃれたやつをね」
                              これを闻いて、えみ子さんは、さっそく针箱をあけて、ぼうしとくつにする布を切りはじめました。あんまり小さいので、ピンセットを使って、目をしょぼしょぼさせながら。
                              それから、ふたりは、小人の一家に、思いつくかぎりの、ありとあらゆるおくりものをしたのです。
                              奥さんの小人には、长いスカートと、花もようのかたかけ、だんなさんの小人には、しまのズボンとチョッキ。子どもたちには、おそろいの青いうわぎ。
                              そして、さいごに、良夫さんは、思いがけないものをつくりました。
                              豆つぶほどのバイオリンでした。この小さな楽器を、良夫さんは、虫めがねとピンセットを使って、ひと晩かかってつくったのです。それは、小さいけれど、とてもよくできていました。ほそい糸が四本、ちゃんとはってあって、小さな小さな弓もついているのです。
                              このバイオリンを、はしごの下にそっとおいて、ふたりは、小人の仕事のすむのを、わくわくと待ちました。
                              今、小人たちは、すっかりりっぱな服装をしていました。奥さんの长いスカートは、どっしりしたビロードでしたし、だんなさんのズボンには、ぴいんと折り目がついています。子どもたちのうわげも、なかなかすてきです。そして、おそろいのフェルトのくつは、まるで、バレエショーズのように、かろやかに见えました。
                              ところが、服装が、あんまりりっぱになったために、小人たちの仕事は、今までよりずっとてまどるようになってしまいました。
                              なえを植えるとき、奥さんは、スカートのすそを、じぶんでふんづけて、よくころびました。お父さんと子どもたちは、せっかくのうわぎやズボンが、よごれるんじゃないかと、とても気にしているふうでした。ビーズの首かざりも、じゃまっけでした。えみ子さんがこしらえたぼうしは、今までの麦わらぼうしよりずっと小さくて、菊の花を运ぶのに、とても时间がかかるようになってしまいました。テーブルかけの仕事を、一回终えると、五人は、もう、ふらふらのようでした。
                              そんなときに、バイオリンが、プレゼントされたのです。バイオリンは、はしごの下に、そっとおいてありました。
                              お父さんの小人が、まず、それを见つけて、おそるおそる近づきました。それから、お母さんをよびました。お母さんは、バイオリンを见ると、両手をひろげて、とてもおどろいたようすをしました。それから早く早くというように、子どもたちを集めました。
                              五人の小人たちは、しゃがんで、しばらくバイオリンを见ていましたが、それが、ほんものの楽器だと知ると、おどりあがってよろこびました。ぼうしのときよりも、洋服のときよりも!手をつないで、なるくなって、バイオリンのまわりを、ぐるぐるまわりはじめました。
                              「ほう、この人たちは、音楽好きなんだねえ」
                              「ほんと。あんなによろこんでる」
                              良夫さんとえみ子さんは、わくわくしながら、小人のようすを、见つめていました。
                              まず、お父さんの小人が、バイオリンを取りあげて、あごの下にはさみました。それから、右手で弓をもって、ほそい糸に、そっとそっと、こすりつけました。
                              きしきしと、バイオリンは、なったようです。なんの曲でしょうか。それは、あんまり小さな音で、ふたりの耳には闻こえません。けれど、たぶん、三拍子のワルツのようでした。奥さんが、スカートをひろげておどりだしたからです。つづいて子どもたちも、おどりだしました。小人の奥さんは、长い髪をゆすりながら、くるくるまわります。
                              「すてき!」
                              と、えみ子さんは、さけびました。
                              「ねえ、この人たちは、もともとおどったり、音楽をかなでたりする小人だったんじゃないかしら」
                              そうかもしれません。小人たちは、お酒をつくることをすっかりわすれて、まるで、ちょうちょのように、おどりつづけるのですから。
                              たしかに、小人の一家は、いつもとようすがちがいました。とても、うかれていたのです。まったく、うかれすぎて、はめをはずしてまったのです……。
                              お父さんの小人は、バイオリンをひきながら、いきなり、とんでもない方向へ、进みはじめました。テーブルかけのふちへむかってー小人の奥さんと子どもたちは、おどりながら、そのあとにつづきました。
                              いっしゅん、えみ子さんは、どきっとしました。が、そのときは、もうおそかったのです。
                              そして、消えたのです。
                              つづいて、奥さんの小人も、三人の子どもも、つぎつぎにテーブルかけの外へでて、消えたのです。
                              あっという间でした。
                              良夫さんと、えみ子さんは、まっ青になりました。これは、いったい、どういうことでしょうか……。
                              「どこへいってしまったの」
                              えみ子さんは、テーブルかけを、めくってみました。たたみのつぎ目を、のぞきこみました。が、小人など、ひとりも、见あたりませんでした。
                              残ったものは、からっぽのつぼと、大きな白いテーブルかけと、あの人たちがわすれた、五つのぼうしー。
                              长い梦からさめたように、ふたりは、ぼんやりすわっていました。
                              


                              23楼2010-08-29 16:16
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