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回复:【原著】日语版『华丽なる一族』上、中、下(带假名哦~)

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 その结果、彼が现在は大蔵大臣であり、当时は银行局长だった永田と同郷で密接に繋(つな)がっており、将来の出世コースを保证されていることが判明した。そして、大蔵官僚が银行头取の娘を妻にすることの是非に迷ったのか、なかなか首をたてにふらなかった美马を、二年がかりで口说き落したのだった。
「さてと――」
 大介は、ボールの落ちた地点から前方を见た。七十ヤードほど先にある大きな谷とバンカーが、この地点からみると、ティー.グラウンドで见た时以上の距离をもって横たわり、前方のフェア.ウェイがほんの少ししかないように见える。普通なら谷越えして向うのフェア.ウェイを狙(ねら)って长打するところを、大介は敢(あ)えて九番のアイアンを取り出し、ショットした。ボールは谷のすぐ手前で止まった。こうして手坚く刻んで打って行き、あとは得意のアプローチで胜负する。その间に、相手が冒険してエラーで自灭するのを待つというのが大介の戦法であった。しかし、美马も好プレイでひけをとらず、十五番ホールは美马が胜った。
 胜负は最终の十八番ホールに持ち込まれた。十八番は、いわゆるドッグ.レッグ.ホールで、全体が犬の足のような形をしていた。大介は十五番ホールの时の作戦と同じく、コースの外侧を远廻りになったが安全に攻めて行き、美马は内侧の曲った部分をカットして、最短距离を狙う戦法を取った。确率は低かったが、成功すればあとの攻め方において、断然、优位にたてる。
 大介の第一打は、狙った通りの地点へ飞んだが、気负った美马は力みすぎて失败し、左方向の雑草地帯へ打ち込んでしまった。大介は、第二打を打った。ボールは次の第三打でグリーンが狙いやすい绝好の场所へ止まった。美马の颜に自尊心を逆抚(さかな)でされたような表情がうかび、枯草の中に落ちたボールの前にたって、无理を承知で条件の悪いその场所から一気にグリーンを狙った。ボールは枯草と一绪に舞い上ったが、グリーンを大きくはずれ、その向うのバンカーへ消えた。そこには名にしおう深いアリソン.バンカーが横たわっている。
「しまった――」
 美马は口惜(くや)しげに云い、グリーンの裏へ廻り、バンカーからグリーンの上の赤い旗竿(はたざお)をめがけてショットしたが、ボールは深いバンカーからなかなか出ない。第三打を首尾よくピンによせた大介は、グリーンの上から砂烟を浴びながら悪戦苦闘している美马を、舅らしからぬ皮肉な笑いをうかべて见诘めていた。辛うじて美马がバンカーから脱出して、グリーンにのせた时には既に六打で、胜负は大介が胜った。
「やっぱり今度も駄目でしたが、この次は必ず雪辱したいものです」
 美马が次回を期するように云ったが、
「いや、私だって、まだ二、三年は君の首根っこをおさえ続けてみせるよ」
 大介は愉快そうに応じ、二人は上気した颜の汗を拭(ぬぐ)いながら、クラブ.ハウスへ引き扬げた。
 シャワーを浴びたあと、クラブ.ハウスのラウンジに向い合い、ビールを注文すると、大介は、
「金融制度调査会の特别委の委员长は、もう内定したのかね」
 正月の电话では、闻き出せなかったことを闻いた。
「ええ、内定してます、日本経済连合会の小野山(おのやま)事务局长ですよ」
「ふうむ、小野山――」
 小野山は日本経済连合会の中でも、金融系列にこだわる银行のエゴイズムが企业再编成を阻(はば)んでいるから、金融机関の再编成を促进すべきだという意见の持主だった。
「そうすると、再编成のテンポが早くなる感じだね」



IP属地:上海23楼2011-09-27 22:00
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    「そうですね、当初の予想より、一年早まるでしょう、何しろ小野山氏は相当な积极论者ですからね」
    「君の云い方を闻いていると、小野山氏が推进力になって早めるように闻えるが、特别委は、政府の谘问(しもん)に対して、答申を出すとはいうものの、ほんとうは、大蔵省银行局で作った构想にサインするだけなんだろう」
     美马はビールを含んだまま、応えなかった。
    「それにしても、どうして大蔵省は、そんなに金融再编成を急ぎたがるのかね、日本の银行の规模は决して小さくない、げんに去年のアメリカン.バンク志に掲(の)っていた世界の五百大银行をみると、上位二十五行の中に、日本の四大银行の五菱(ごりよう)银行や大友银行などは四行とも入っているし、わが行だって八十三位に入っている、それにもかかわらず、都市银行の大型合并を促进することは、かえって金融机関の寡占(かせん)化体制を招き、产业支配の强化が行われるような弊害が出るかもしれないじゃないか」
    「いやですねぇ、阪神银行头取のお舅さんが、そんなことをおっしゃっては、日本では、现在、预金量第一位の银行でも、全国银行中に占める占有率(シエア)は六パーセント程度に过ぎないから、都市银行间に合并が行われることがあっても、寡占体制に繋がらないことぐらい、先刻ご承知のはずじゃありませんか」
     そう云う时の美马は、鼻にかかった女のような声にもかかわらず、はっとするような官僚的な冷たさが漂う。
    「それにしても、何のためだね、そんなに金融再编成を急ぐのは? 财界だって积极的な支持はあんまりみかけられないじゃないか、しきりと急いでいるのは、君の大亲分(ボス)である永田大蔵大臣や総理など、自由党の连中ばかりじゃないかね」
    「お舅さん、私たちは、财界の意向を全く无视してやることなどは、出来ません――」
     それ以上は、言外に微妙なニュアンスを响かせ、一旦(いつたん)、口を噤(つぐ)み、
    「ともかく再编成は、“合并屋”の异名をもつ春田银行局长によって、强力に推し进められて行きますよ、ついこの间の省内の会议でも、彼は、各产业とも経済の国际化に备えて体质の强化に努めている时、金融机関だけが従来通りの过保护の体制に恋々(れんれん)としていることは许されないという强硬论をぶち、その具体化の火盖(ひぶた)を切りましたよ」
    「何だね、それは?」
    「まだ公表を控えていますが、再编成の绪(いとぐち)として、いよいよ都市银行に统一経理基准を実施しようということになったのです」
    「しかし、あれは単なる経理上の问题だろう、再编成とどう繋がるのかね」
     确か経理担当の専务からの报告でも、そうした性格のものだと闻いていた。
    「そうやって皆、まだ気付いていませんが、あれを立案した奴(やつ)は相当な智恵(ちえ)者(しや)でしてね、统一経理基准が适用されると、各银行の経理は全部ガラス张りになる、それがほんとうの狙いなんですよ」
     美马がそう云った途端、大介は、はっと虚を冲(つ)かれたように表情を动かした。これまで各银行の决算方式はまちまちで、利益の出し方も或(あ)る程度、自由に操作できたから、実际には上位の四大银行ほど収益が上らない银行でも、何とか表面をつくろい、预金者の信用维持を図って来られたが、统一経理基准が适用されれば、各行とも同一の基准で决算を行わねばならないから、経理内容がガラス张りになり、银行间の収益の格差がはっきりと表に出て来る。そうなれば、预金者の心理として、収益の高い银行へ预金したくなるのは当然である。
    


    IP属地:上海24楼2011-09-27 22:00
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       大介は阳に辉いている芝生に眼を向け、黙り込んだ。美马が云うような意図で统一経理基准が适用されるということは、近い将来、金利、配当、店舗の自由化が必ずなされるということであり、そうなれば预金金利や配当の高い大银行に、ますます预金者が集まり、中、下位银行の経営は、非常に苦しくなって来る。そう考えると、大介は怖ろしい思いがした。
       都市银行とはいえ、业界ランク十位という下位にある阪神银行は、このままの状态で行けば、将来、上位の大银行に统合、合并される危険がなきにしもあらずであるからだった。その危険性を避けるためには、今、眼前にいる娘婿の美马をはじめとする闺阀(けいばつ)を駆使して、政官界に働きかけ、阪神银行を生き残らせるための万全の策を、充分に时日をかけて布石しておかなければならないと思った。
       暖炉のある広い居间で、母の宁子と东京から実家(さと)帰りして来た长女の一子を中心にして、二子、三子をまじえた母娘(おやこ)の楽しい団栾(だんらん)が、先刻(さつき)から続いている。
      「お姉さま、メルシー.ボクゥ、すばらしいハンドバッグやわ、やっぱりフランス制でも、エルメスのでないと駄目ね」
       二子が、テーブルの上に拡げたシックな包み纸から薄茶(ベージユ)のスエードのハンドバッグを取り出し、手で触(さわ)れば、そのまま指あとがつきそうなソフトな肌触りをいとおしむように云うと、三子も、
      「お姉さま、私のペランの手袋(グラヴ)も素敌やわ、残念ながら関西では、肘上(ひじうえ)までのアーム.ロングのホワイト.キッドは见つからないの、これでパーティ.ドレスがぐんと引きたつわ、この顷、宫さま方だってアーム.ロングの手袋になると、绢地ですませていらっしゃるそうやけど、ヨーロッパの正装では、纯白のキッドでなきゃあ、贵妇人とは云われへんのよ」
       暖炉の前で、贵妇人を気取った身振りをした。
      「そんなに喜んで下さったら、银座を探し廻った甲斐(かい)があってよ」
       一子は、姉らしい优しさを笼(こ)めて云った。
      「でも、お勘定の方、お姉さまの家计にひびかないこと?」
       二子が、高価なハンドバッグを抱えながら心配すると、三子が、
      「大丈夫、お父さまが美马中氏渡りに、毎月ちゃんと小切手をおきりになっていらっしゃるはずやもの、だから、これはそのリベートかな」
       悪戯(いたずら)っぽい云い方をすると、母の宁子は、関西讹(なま)りのおっとりとした口调で、
      「そんなお品の悪いことを云うものやありません、お姉さまには私からご迷惑にならないようにしておきます」
       窘(たしな)めるように云った。
      「いいのよ、お母さま、姉妹でこんなにあけすけなお喋(しやべ)りが出来るのは、久しぶりですもの、それに子供たちも、あんなに大喜びですわ」
       居间から见下ろせる芝生の庭で、庆応幼稚舎の宏(ひろし)と、幼稚园の润が、鉄平の子供と一绪になって走り廻っている。みんな元気な半ズボン姿で、仲のいい歓声が居间まで闻えて来ていた。そんな子供たちの姿を、一子はうっとりとした表情で见守っている。三人の姉妹の中ではいちばん母に似、色白の细面(ほそおもて)に、一重の张りのある眼とつぼむような小さな口もとをし、三十五歳にしては地味过ぎる青磁色の着物を着ているが、それがかえって清楚(せいそ)な感じを増している。
      「久しぶりに鉄平兄さんにお会い出来ると思ってましたのに、ご出张から帰っていらっしゃらないのですってね」
       一子は、绝えず技术者らしい纯粋な情热を燃えたぎらせている鉄平の性格が好きであった。
      


      IP属地:上海25楼2011-09-27 22:00
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        「银平さんの方は、どうしているの?」
         弟の银平のことを闻いた。母の宁子は口诘るように视线を落したが、三子は、右手でグラスを持つ恰好(かつこう)をし、
        「银平兄さんたら、お昼は至极、お品のいい银行员だけど、夜ともなればプレイ.ボーイよろしく饮み步き、土曜日の夜などは、いつも午前さまでご帰馆、だから今日はまず、正午まではお寝(やす)みよ」
        「じゃあ、相変らずなのね」
         兄の鉄平と异なり、冷静すぎるというのか、いつも醒(さ)めたような表情でいる青白んだ弟の银平の颜を思いうかべた。
        「それで、ご縁谈の方は、その后どうなっているの」
        「肝肾の银平兄さんが、せっかくの良縁にも、たいした热意も示さず、かといって断わりもせず、ぬらりくらりで全く何を考えていらっしゃるか解(わか)らないの、だから、さすがの相子女史もいささか手をやいているようやわ」
         二子が话した。
        「相子さんは、また犬のお散步かしら」
         一子は、朝食で颜を合わせたきり、相子の姿を见かけなかった。
        「きっとそうよ、わが家の贵公子、贵公女三匹を引き连れて、今ごろ裏山のお散步よ、ビスマルクは、高贵なる犬を暖炉の両侧に従えるのは、富と権威の象徴だと云ったそうだから、相子さんもその気でいるのかもしれないわ」
         三子が、西洋史を専攻している学生らしい比喩(ひゆ)を持ち出した。
        「面白い喩(たと)えじゃないの、きっとそのつもりで、ファウン.グレートデンを引っ张り廻しているのよ、でも、高须相子における富と権威というと、どういうことになるのかしら、まさか彼女自身が财产家であるはずはないでしょうしね」
         大学を卒业した后もピアノを続けている二子が皮肉るように云い、
        「でも、彼女、たしかに美人ね、四十を过ぎているはずなのに、谁がみても三十五歳以上には见えないわ、一体、何を使っているのかしら? 全身美容にでも通っているのかしら? ともかく彼女には妖(あや)しさがあるわね、人の结婚の世话などするよりも、自分がどこかへさっさと嫁(い)けばいいのに――」
         しゃきしゃきと畳み込むように云うと、
        「あら困るわ、私がちゃんといいところへ嫁ぐまではいて贳(もら)わないと――」
         三子がまぜっ返し、互いに颜を见合せて笑った。一子には、高须相子の存在が、少女时代から自分の心に暗い影を落していたが、妹の二子と三子には、さほど深刻な存在ではなく、家庭教师兼女执事、兼自分たちの良縁探し役という、からりとした割切り方をしている。
        「さあ、坊やたちがお待ちかねだから、私たちも、そろそろ行こうかな」
         二子と三子は、お揃(そろ)いのスラックス姿で庭へ降りて行った。
         一子は、母と二人きりになると、暖炉に薪(まき)をくべ、ポットの红茶を注いだ。
        「お母さま、先程の银平さんのことだけど、ほんとうにどうなっておりますの?」
        「どうって、私にもよく解らないの、大阪重工の安田さまか、京都大学の有名な数学者の三木教授のお嬢さまか、どちらかのご縁谈に定(き)めさせて戴(いただ)こうということになっているのだけど、どう定めてよいのか、私には……」
         细面の白い颜をたゆとうようにかしげた。五十の半ばを过ぎながら、童女のようにあどけない仕种(しぐさ)であった。そんな仕种に出会うと、公卿(くげ)华族の出という特殊な环境から来るものか、それとも母の性格のどこかに何か脱落したものがあるのではないかと、一子は考えるのだった。
        


        IP属地:上海26楼2011-09-27 22:00
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          「どうしてお母さまは、ご自分の子供の结婚に、母らしいはっきりとしたご意见をお持ちにならないのです、私の时も今と同じでしたわ」
           一子は、多くの縁谈の中から、父の妹である叔母が持って来た大阪の繊维会社社长の令息を好ましく思い、心をきめていたのだが、父の意向で、相子に伴われて大蔵官僚の美马中と见合いをさせられ、断わろうとすると、相子が「お父さまほどの方でも、大蔵省の银行局にはご苦労游ばしているのです、それだけにこのご縁谈を承知して下さると、お父さまはどれだけお喜びになるかしれません」と强引に縁谈を进めたのだった。その时も、母の宁子は何一つはっきりした意见を出さず、结婚式の日だけ、饰りもののように花嫁の母の席に坐(すわ)ったのだった。
          「私って、駄目ね、何一つできないのですもの……」
           宁子は、哀(かな)しげに、ぽつりと云った。
           宁子の実家の嵯峨家(さがけ)は、子爵(ししやく)とは名ばかりで、公卿华族という血统を唯一(ゆいいつ)の财产にして、娘たちを资产家に嫁(かたづ)け、その余沢で华族生活を维持して来た京都の贫乏华族であった。宁子たち三人の姉妹にも幼(ちいさ)い时から一人一人の老女が随(つ)き、父をおもうさま〔#「おもうさま」に傍点〕、母をおたあさま〔#「おたあさま」に傍点〕と呼ぶ特异な环境の中で育てられて成人すると、手作りの雏(ひな)人形のように财产家へ嫁がされ、その时の巨额な结纳金の大半が、华族としての体面を保つ手元金(てもときん)という名目で実家に収纳されるのだった。そして、その嵯峨家の现在の当主である宁子の兄は、趣味と実益をかねた関西洋兰(ようらん)协会の会长として余り豊かでない生活を送っている。
           一子は、ふと话题をかえるように、
          「お母さま、子供たちのいる庭へお出になりませんか」
           声をかけると、母は臈(ろう)たけた颜を虚(うつ)ろにして、暖炉の中を见诘めている。暖炉の火が消えそうになり、黒く焼け焦(こ)げた薪が、ちろちろと黄色い炎を吐いている。虚ろな母の眼が、消え尽きそうな炎に吸い寄せられているのを见、一子は、この世间知らずのお姫(ひい)さま育ちの母の日常が、今も昔と少しも変らない状态であることを察した。
           万表大介と美马がゴルフから帰り、晚餐(ばんさん)がすむと、一同は居间へ移り、食后の赈(にぎ)やかな団栾に一ときを过していた。暖炉に近い一番大きな安楽椅子(ソファ)には大介が坐り、娘たちは少し离れたテーブルを囲んで、他爱ないお喋りをしていたが、大介はパイプをくゆらせながら、今朝のゴルフの后(あと)、娘婿(むすめむこ)の美马から闻いた话を思い返していた。
           近く大蔵省银行局の指导で统一経理基准が适用されることになると、银行の経理がガラス张りになり、银行间の格差がはっきりして来、阪神银行のような下位银行の経営は难かしくなって、いずれは上位四行の大银行に吸収合并される危険に曝(さら)される――。そう思うと、大介は、食后の団栾に加わりながらも、明日、紧急に役员会を招集して、対策を练らねばならないと考えていた。
           娘たちの高い笑い声がした。义兄(あに)の美马を中心にして、二子と三子が喋っている。
          「お义兄(にい)さま、大蔵省って、一番、闺阀のすごいところ、闺阀のメッカだなんて云われているの、ほんとうなの?」
           末娘の三子が闻いた。美马は、苦笑した。彼自身が、万表家の长女である一子を妻にし、金融机関と闺阀を结んでいる。しかし、三子の质问には悪意がなく、若い娘の単纯な好奇心であった。
          


          IP属地:上海27楼2011-09-27 22:00
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             美马が応(こた)えた。相子は、居间の片隅にある洋酒棚から、ブランディとグラスを取り出し、まず今夜の客である美马に注(つ)いだ。そしてその同じテーブルにいる一子たちの前にも、グラスを置きかけると、
            「こちらは结构でございます」
             ぴしゃりと一子が、母や妹たちの意向も闻かずに断わった。一瞬、気まずい雰囲気(ふんいき)が流れた。一子は、さっきの晚餐の席で、大介の左侧の妻の坐るべき席に、高须相子が坐っていたことにこだわっていた。せめて万表家の长女が、久しぶりに帰って来た时ぐらいは、相子に远虑して欲しかったのだった。相子は、平然として、
            「では、あちらのテーブルで、殿方ばかりで召し上って戴きましょう」
             と云い、巧みに美马と银平を、大介のいるテーブルの方へ诱い出し、自分もそこに加わって、グラスにブランディを注ぎ、
            「美马さんがいらっしゃると、団栾が一段と楽しくなりますわ、鉄平さんがまだお帰りにならなくて残念ですけれど――」
             相子と美马の间には、相子が、美马と一子との结婚を积极的に推进したということの他に、互いに万表家のような富豪の家に生れず、中流の家庭に育ったという共通感のようなものがあった。
            「今年も予算编成は大へんでございましたでしょう、この间の新闻でも、各省の方々が、彻夜で主计局の前で待っておられる写真が出ておりましたわね」
            「ええ、毎年、十二月下旬から第一回の予算査定をするわけですが、九月顷から各省ごとに出されている予算资料は天井まで届くほど膨大なものでしてね、それを検讨し、その说明を闻いた上で、よほどの理由がない限り、第一次査定はだいたい既定経费以外は、殆(ほとん)どゼロの査定をするわけです、そうなると、各省から猛烈な第二次要求が来て、ゼロ査定したものの复活を要求される、これに対して何とかかんとか理窟(りくつ)をこね廻して突っ拨(ぱ)ねる、そうすると、また第三次要求案が出されていよいよ终盘戦に入るんです、この顷から主计局の前の廊下は彻夜で顺番待ちの各省の课长连で埋(うず)まり、攻める侧も守る侧も不眠不休の状态になり、どうにも话し合いのつかないものはいわゆる大臣折冲ということになるわけですが、大臣がやるべきだと定(き)めても、国家の金を预かっている主计官がノーといえばそれまでですよ、それにしても予算査定ともなると、どうしてああ乞食(こじき)がものを贳うように卑屈に头を下げるのですかねぇ」
             六兆円にのぼる国家予算を一手に握り、场合によっては大臣にも头を下げさせておきながら、乞食呼ばわりするところに尊大なエリート意识が剥(む)き出しになっていた。美马は快げに酒気に颜を红(あか)らませ、さっきから黙ってブランディ.グラスを口に运んでいる银平を见て、声をかけた。
            「その后、银平君の縁谈はどうなっているの、阪神银行头取の御曹子で、庆応大学出身、眉目(びもく)秀丽、三十三歳の银平君には、縁谈は降る星の如(ごと)くだろう」
            「降るだけでは、仕方がないのでしてねぇ」
            「じゃあ、早く定(き)めればいいじゃないか」
             美马が云うと、银平は青白んだ颜に薄い笑いをうかべた。
            「相当、游び廻っているということだけど、バー游びが面白いってわけ?」
            「バーなど、たいして面白くないですよ」
             银平は、素っ気なく云った。
            「じゃあ、谁か好きな女(ひと)でもいるのかい?」
             美马は、わざと男同士のくだけた闻き方をした。
            「仆の场合は、好きな女がいても、その场限りで决済〔#「决済」に傍点〕できるのばかりですよ」
            


            IP属地:上海29楼2011-09-27 22:00
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              「それじゃあ、结婚の相手として、谁かいい人でもいるのかい?」
              「あるはずがありませんよ、どうせ结婚したいという相手があっても、お父さんが简単に承知するはずはないし、といって、何でもお父さんの仰(おお)せの通りになるのも、だらしないし――」
              「それで、この间からの縁谈に生(なま)返事しているというわけか」
               大介の眼が、ぎょろりと光った。
              「いや、一概にそういうわけでもありませんがねぇ」
               银平は、父よりも相子の方を见て、云った。
              「银平さんって、いつもこんな応え方をするのよ、何事につけても傍観者的というのか、少年の顷からそんなところがあって、私、随分、困りましたのよ」
               相子は、大介にとも、美马にともなく云った。大介はぷかりとパイプをくゆらしたが、美马は、银平の方を见た。三十三歳の若さで、重役クラスが着るような服を着、ブランディ.グラスを手にして、深々と安楽椅子(ソファ)に体を埋めている。そして少し离れたところでは女ばかりでチェスがはじまっている。一子の姿が见えないのは、隣室で游んでいる子供たちに帰り支度をさせに行っているらしい。
              「相子さんは大へんですね、大家族の万表家で、しかもそれぞれ、胜手気尽(きまま)な人たちばかりなんだから、縁谈をまとめるとなると、一苦労でしょう」
              「でも、万表家をさらに大きくするためには、银平さんのご縁谈は、いろいろと大切な意味を持ちますし、それに相手の方の职业によっては、美马さんとの関系もございますし――」
              「もちろんです、银平君の縁谈は、私の立场にもかかわり合いを持つことですからね」
               美马中は、当然のように颔(うなず)き、自分も帰り支度を整えるためにたち上った。
               美马と一子と子供たちを乗せた车が、赤い尾灯(テール.ランプ)を见せながら、邸内の道をゆっくり降りて行った。相子は、玄関のポーチに一绪に列(なら)んで见送った宁子と玄関へ入り、ホールを横ぎって阶段のところまで来ると、
              「では、お寝(やす)み游ばせ」
               いつものようにさり気なく挨拶を交わし、阶段を上った。二阶の廊下を右へ折れ、突き当りの部屋が万表大介の寝室になっている。ノックすると、応答はなかったが、相子は扉(ドア)を开けた。
               渋いローズ色の绒毯(じゆうたん)を敷き诘めた寝室は、明るい野趣に富んだスペイン风の外観に対して、优美なフランス风にしつらえられ、化妆台からナイト.テーブル、衣裳(いしよう)箪笥(だんす)まですべて象牙(ぞうげ)色に统一されている。その部屋の真ん中には、豪华なベッドが并んでいた。象牙色に金色の縁取りをした三台のベッドであった。三台のベッドの真ん中のダブル.ベッドが大介、両侧のシングル.ベッドが、宁子と相子のもので、年に何回かは三人同衾(どうきん)することもある。
               ベッド.ルームに続いたバス.ルームで、シャワーを使う大介の気配がしたが、晚餐前にバスを使った相子は、服を脱いでオール.プリーツのナイト.ガウンに着替えると、化妆台の前に坐って、クレンジング.クリームをたっぷり掌(てのひら)に取り、化妆を落しはじめた。最初にクリーム状のクレンジングで落し、続いて乳液状のクレンジングで落し、さらにスキン.ローションで拭(ぬぐ)って行くにつれ、素颜の高须相子の颜が现われて来る。相子はさっき、一子が万表家の长女であることを夸示するように振舞ったことを思い浮かべて、不快になった。ただ万表家の娘に生れたというそれだけのことで、现在の一子があるのではないかと思うと、自分の幼い时のことが思い出された。
              


              IP属地:上海30楼2011-09-27 22:00
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                 相子の家庭は、母を亡くし、父と弟と相子の三人暮しで、相子が大学进学の时、父は大阪府教育委员会の学事课长であったが、専门学校しか出ていないために、课长以上の升进は望みがなかった。それだけに相子は学费负担が軽くすむ国立の奈良女子高等师范を选び、社会学を専攻した。そのあと、ガリオア.エロアの奨学资金を得て、カリフォルニア大学へ留学したのだったが、昭和二十三年顷のアメリカにおける留学生の生活は、现在のように恵まれた状态ではなかった。相子は、ガソリン.スタンドやドラッグ.ストアの店员のアルバイトをして卒业したが、卒业后、すぐ日本へ帰国しなかったのは、同じ社会学を専攻する教室の研究员であるリチャード.キーンと结婚したからであった。キーン家は富裕な家庭ではなかったが、父が陆军大佐という军人である上に、母がイギリス人であったから、英国风の厳格な家庭だった。したがって相子との结婚には强く反対したのだったが、结局は一人息子の恳愿に押し切られた形になった。それだけに结婚してキーン家へ入ってからの相子は、ことごとに、厳しい英国风のマナーにそぐわない点を指摘され、特に舅のエドワードが日本人に対して人种的偏见を持っていることを知った时、学究肌で心の温かいリチャードに対しては断ち难い爱情を抱きながら、それ以上、キーン家にとどまる意欲を失った。
                 仅(わず)か一年で离婚し、日本へ帰って来た相子に、思いがけない出来事が待ち受けていたのだった。戦后、国定教科书が廃止され、各校で自由に教材を选ぶ方式に切り替ったが、父は特定の教育図书出版社から物品を受け取って便宜を与えたという教科书汚职に连座し、実刑ではなかったものの、罚金刑を受けて惩戒免职になった。そのころ弟は大阪大学へ入学したところであった。そんな事情の中では、米国留学の肩书を持った相子であったが、一流企业には采用されず、さりとて、中小の企业へ行くことも気が进まず、将来をきめかねていた时、父の旧友から、万表家が高给をもって欧米风の教育をする家庭教师を探しているからどうかという话があった。経済的な必要に迫られていた相子は、さらに仲介者を得て、万表家を访れたのだった。
                 最初に万表大介に会ったのは、采用を决める面接のためであった。当时、まだ健在だった老执事に伴われて、一阶の书斎へ入って行くと、万表大介が书棚の前の椅子(いす)に坐(すわ)っていた。阪神银行の副头取であるとは闻いて来たが、年齢に似ぬ冷彻な容貌(ようぼう)に畏怖(いふ)の念を抱いた。大介は相子の履歴书に眼を通し、まず仕事の内容が五人の子供の家庭教师であることを告げた。承知していますと応えると、父の件は口にせず、アメリカへ留学し、アメリカで结婚したあなたが、なぜ离婚したのかと闻いた。夫は心の温かい人でしたが、舅の日本人に対する人种的偏见が我慢ならなかったからと応えると、大介は颔き、执事に、妻と子供を呼んで来るようにと云った。间もなく、美しい妻と聡明(そうめい)そうな三人の子供が入って来ると、大介は、「あと二人の子供は、乳母がついて昼寝をさせているが、これが私の子供と妻です、やって行けそうですか」と闻いた。美しい妻と聡明そうな子供を持ち、自ら家庭教师の采用にたち合いながら、父として、夫としての温かみに欠けているような印象ではあったが、相子は承知した。
                 二度目に大介と话したのは、万表家へ入って一カ月目であった。広い邸内であったし、家庭教师が役目であったから、めったに颜を合わせる机会はなかったが、その日、长男の鉄平の部屋へ、一子と银平の二人を集めて、英会话の勉强をさせていた。英国の上流家庭で用いられる敬语の使い方の练习であったが、何度缲り返しても敬语の云い廻しができない。少々、苛(いら)だった相子が、思わず、「あなた方は、马にたとえれば毛并の优れたサラブレッドです、サラブレッドが名马になるためには、毎日、厳しい调教を重ねるのです、あなた方も満二十歳の成人に达するまで、私の厳しい调教を受けねばなりません」と云った时、いつの间に扉が开いたのか、大介が入って来、「私も、二十歳まで祖父に厳しい教育を受けた、あなたは、私と同じ考えを持っている」と云い、强い眼(まな)ざしで相子の颜をまじまじと见诘めた。その日から相子は、大介に対して畏怖の念とともに、惹(ひ)かれるようなものを感じ、子供たちの教育方针、进学などについての意见を、积极的に大介に话すようになった。そして、相子が万表家へ来てから半年目の或(あ)る日の夕刻、大介に书斎へ呼ばれた。その时间は、子供たちが一斉に入浴し、女中たちがそれにかかりきって、広い邸内の汤殿以外は人気(ひとけ)がなく、真空状态になっていた。森闲とした异様な静けさの中を大介の书斎へ入って行くと、大介は、傍(そば)へ寄るように眼で命じた。相子は一瞬、眩晕(めまい)するような震えを覚えたが、あとはそれを待っていたような自然さで、大介の体に抱かれた。


                IP属地:上海31楼2011-09-27 22:00
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                   相子の眼が生き生きと光った。万表家の闺阀作りの时にこそ、相子には妻以上の権限が委(ゆだ)ねられ、それを自由に动かすことが出来るからであった。
                  「银平も、これだけの事情があれば承知するだろうと思うが、何しろあの性格だからな」
                   昨夜、饮むほどに青白み、美马にさえ闺阀结婚を揶揄(やゆ)するような云い方をした银平の姿が、相子の眼にも浮かんだ。
                  「解っておりますわ、银平さんには、私からよくお话しして、取りきめることに致しますから」
                  「そうかい、じゃあ、相子に任せたよ」
                   大介は肩の荷を一つ下ろしたように云い、门へ足を早めた。三头の爱犬も、大介と相子の前にたち后になって正门に向った。どれも黄金色の滑らかな毛を辉かせ、凛(りん)とした威风に満ちた体躯(たいく)で、いかにも犬の王者らしい。
                  「あの威风に満ちた姿と云い、悠然とした步き方と云い、あなたによく似ていますわ――」
                   相子は大きな眼を细めるように云った。
                  「万表大介がファウン.グレートデンか、それで君は、この私を饲い驯らし、征服するようなつもりで、ファウン.グレートデンを买わせ、引っ张り廻しているのかね」
                   たしかにファウン.グレートデンを饲おうと云い出したのは、相子であった。
                  「あら、饲い驯らしていらっしゃるのは、あなたの方ではございませんの、宁子さんと私とを同时に――」
                   と云い、相子は形のいい歯をみせて笑ったが、眼だけは笑っていなかった。门のところまで来ると、迎えのベンツが待っていた。运転手は、恭(うやうや)しく扉(ドア)を开けた。相子も改まったもの腰で、
                  「では、お気をつけ游ばしませ――」
                   车が动き出しても、上半身を屈(かが)めた姿势で、万表大介を见送った。高须相子の人前でのそうしたけじめの正しい姿势と豊かな教养、そして子供たちの家庭教师であった経歴が、诠索(せんさく)がましい近隣の眼をも见事に遮(さえぎ)っていた。
                   その朝、阪神银行の三阶役员室では、融资方针会议が开かれていた。
                   十亿円以上の大口贷出先の融资方针を决める最高会议であったから、万表头取も出席し、头取を正面に、左に経理担当の大亀(おおがめ)専务、右に総务担当の小松専务が座を占め、それに向い合って、融资担当の渋野常务、业务担当の荒武(あらたけ)常务、外国担当の舟山常务、事务能率担当の新井常务の六人が坐っていた。
                   新年からの悬案であった平和ハウスの新规设备拡张に伴う十五亿円の融资申込みの検讨であったが、融资申込书と设备计画の书类が机の上に拡げられ、役员たちの意见は出尽し、あとは头取の决裁を待つばかりだった。万表头取は、眼镜の下の切れ长の眼をきらりと光らせ、
                  「プレハブ建筑は、将来、家电メーカーにとって代る花形优良产业であるという见通しのもとに、当行は平和ハウスに対してずっと融资を続けて来、その融资方针は正鹄(せいこく)を射たわけであるが、収益面では何といっても、今までは水やり、肥料(こえ)やりの育成时期で、これからがほんとうの収益の时期になるのだから、ここで思いきって积极的に、融资申込金额の全额を认めて、さらに飞跃的な発展を期待すべきだと思う」
                   と断を下し、平和ハウスの十五亿の融资は决定した。三时间にわたる审议が终り、ほっとした雰囲気(ふんいき)の中で、侧近の大亀専务が、肥(ふと)った体を乗り出すように、
                  「平和ハウスに注ぎ込めと头取が指令を出されたのは、たしか九年前でございましたね、当初はあんな玩具(おもちや)のようなバラック住宅を造る会社にと踌躇(ちゆうちよ)する役员が多く、私もその一人だったんですが、最近の目ざましいプレハブ住宅产业の成长を见るにつけ、今さらながら、头取のご炯眼(けいがん)には敬服致します」
                  


                  IP属地:上海34楼2011-09-27 22:00
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                     真底(しんそこ)から感服する体(てい)で云うと、小松専务も、
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                     先の大亀専务に劣らぬ阿(おもね)りを笼(こ)めて云った。万表は叶巻をくゆらせながら、二人の専务の阿りをしごく当然のように闻いていた。
                     経理担当の大亀専务は、十二年前、本店営业部长の时に直属の部下が多额の贷金のこげつきを作って进退伺いものであったのを、万表头取が长い眼で使ってくれたことに感泣し、その时以来の寝食を忘れた働きぶりが认められて、専务に取りたてられたのだった。総务担当の小松専务は、小松という名に似つかわしく小柄で贫相な男であったが、戦后の农地解放その他で、一时、万表财阀が浮沈の瀬戸际(せとぎわ)にたった时、万表家の财产保全のために计理士はだしの活跃をし、尔来(じらい)、万表コンツェルンの金库番的な役割を果し、それで専务に成り得たのだった。したがって二人の専务は、本来の银行业务の上では、もはや格别の见识を持ち合せていなかったが、万表はそれを承知で身近においていた。その代り四人の若い切れ者を常务に据えている。
                     四人の常务は、平均年齢四十九歳という若さであった。三年前、阪神银行の体质改善を図るためという名分で、古参常务五人の首をばっさり切って、関连会社へ追いやったあと、能力厳选主义で选び抜き、抜擢(ばつてき)したエキスパートであった。つまり万表の人事のやり方は、自分に彻底したサービスをする人间か、さもなくば、仕事に彻底的に役立つ人间のどちらかで、その他は容赦もなく切り舍ててしまう。したがって役员の中に、人事担当がいないのは、万表自身が人事を握り、自由に生杀与夺の権を振るうためであった。
                    「では、头取もお疲れでしょうし、昼食はこちらへ运ばせましょうか」
                     小松専务が、正午を指しかけている壁时计に眼を遣(や)り、気をきかせるように云うと、
                    「いや、まだ诸君に重要な话が残っている、统一経理基准の问题についてだ――」
                     役员たちは、呑(の)み込みかねるように头取の颜を见た。経理担当の大亀専务は、
                    「その问题につきましては、以前、二度ほど役员会でも报告しておりますが、何か?」
                    「解っている、しかし、君たち担当者の报告では、将来、大蔵省の行政指导によって银行の経理方式が変るという、単なる技术的な问题に过ぎぬような报告ではなかったかね、ところがさる筋からの情报をもとにして考えると、あれは経営上の由々しい问题じゃないか」
                     昨日、広野ゴルフ倶楽部(クラブ)で、娘婿(むすめむこ)の大蔵省主计局次长の美马中から闻いたことなど※〔#口+爱〕(おくび)にも出さず、役员たちの不勉强を叱责(しつせき)するように云い、
                    「大蔵省が、统一経理基准を持ち出して来た真意は、単なる経理上のテクニックの问题ではなく、これを梃(てこ)にして、将来、配当の自由化を図って、银行间の竞争を一段と激しいものにして行き、并せて、金利の自由化、店舗の自由化をも行なって、徐々に金融再编成を促进しようというのが、ほんとうの狙(ねら)いなのだ」
                     役员たちは、はっとしたように沈黙した。万表头取はじろりと役员たちを见廻し、
                    「この统一経理基准で大蔵省は、贷倒引当金、価格変动准备金、退职给与引当金など、いくつかの项目にわたって新しい基准を适用しようとしているが、中でも问题なのは贷倒引当金だろう」
                    


                    IP属地:上海35楼2011-09-27 22:00
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                       月曜日の午后一时过ぎは、阪神银行の本店営业部が一周间のうちでもっとも多忙な时刻であった。
                       天井の高い重厚なたたずまいのロビーには、神戸の元町界隈(かいわい)の会社の経理関系者やオフィス.ガールたちが慌(あわただ)しく出入りし、特に预金や为替関系のカウンターには人影が多い。
                       万表头取の次男である万表银平は、贷付二课の课长席に坐(すわ)って、融资申込书と禀议书(りんぎしよ)に眼を通し、判を捺(お)していた。生产部门の取引が主である贷付一课に対して、二课は商业部门が主たる贷付対象で、课长の万表银平の下に二人の课长代理と四人の课员がいたが、一人五、六十社を担当しているから、机の上の电话が绝えず鸣り続け、课员たちは、来客や电话の応対に追われ、人の出入りも慌しい。そんな中で万表银平は、グレイのサキソニー.フラノのスーツに、渋いブルーのネクタイを缔めた一分(いちぶ)の隙(すき)もない潇洒(しようしや)な身装(みなり)で机に向い、周囲の雰囲気や慌しい人の出入りとかかわりないような姿势で仕事を运んでいる。
                       眼の前の电话が鸣った。银平は面倒そうに腕を伸ばして受话器を取った。
                      「もしもし、万表课长でございますね、こちらは渋野常务の秘书でございますが、只今(ただいま)、太平(たいへい)スーパーの太平社长が、常务の部屋へ见えておりますので、すぐご足労愿いたいと、常务が申しておりますが――」
                       多分に头取の御曹子であることを意识した言叶遣いであった。
                      「解(わか)りました、すぐ参ります」
                       银平は受话器を置くと、自分より五つ齢上(としうえ)の课长代理に、
                      「例の太平スーパーの件で、渋野常务の部屋へ行くから、电话その他は、适当にさばいておいて下さい」
                       と云った。课长代理は、太平スーパーと闻いただけで、
                      「かしこまりました、相当、お时间がかかりそうですね」
                       心得颜に応えた。
                       太平スーパーは、资本金二亿、支店九店、年商九十亿を计上する衣料中心のスーパー.ストアで、本店は、大阪と神戸の中间に位置する西宫にあったが、七年前から本店贷付二课と取引をはじめ、阪神银行がメイン.バンクであった。たまたま太平スーパーの太平社长が、大阪の繊维问屋街の丼池(どぶいけ)の丁稚(でつち)奉公から身を起した立志伝中の人物であることが地元新闻などを通してよく知られ、それが庶民にうけて、仅(わず)か十年で阪神间では五指に数えられるスーパー.ストアになったのだった。しかし一年前に东京の富士ストアが强力な资本を背景に进出して来たために、昨年の秋顷から押され気味になり、贷付课では経営不振を警戒していたが、遂(つい)に先月、一月二十日払いの支払手形を落す资金が五千万円ほど不足して、駈込(かけこ)みの融资を頼みに现われ、再び今朝、五日先の二月二十日の払いに当って、支払手形を落す资金手当を申し込んで来たのだった。これまでの贷金が十亿近くあるだけに、银平は、営业部长と融资部长とに相谈したかったが、あいにく昨日から东京出张で不在だったため、融资担当重役の渋野常务へ直接、上申し、急遽(きゆうきよ)、二时から渋野常务を交えて、太平スーパーの今后の融资方针を、话し合うことになっていたのだった。
                       银平は、太平スーパーの资金缲表(しきんぐりひよう)と贷出関系のファイルを持って、渋野常务の部屋へ向った。
                       応接用の安楽椅子(ソファ)に、太平スーパーの太平社长と、経理担当の専务が肩を落して坐っており、渋野常务は、渋面で、二人に向い合っていた。
                      


                      IP属地:上海37楼2011-09-29 19:50
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                        「遅くなりました」
                         银平が渋野常务の横に腰を下ろすと、贫相な颜に不似合いな金縁眼镜をかけた成金趣味の太平社长は、腰を浮かし、
                        「今朝ほどは、また突然と、ご无理を申しまして、ほんまにすんまへん」
                         胡麻塩(ごましお)头をテーブルにこすりつけんばかりに云った。银平はそれには応えず、黙ってダンヒルの巻烟草をシガレット.ケースから取り出し、火を点(つ)けた。银平のような人间は、こうした一代で叩(たた)き上げた成上り者に対しては、体质的に肌が合わなかった。何事につけても、傍観者的な感情しか持たない银平であったが、成上り者だけには、どうしようもない厌悪(えんお)感が伴い、顺境にあって得意になればなったで、また逆境に落ちて卑屈になればなったで、神経にひっかかるものがあった。
                         太平スーパーの社长は、そんな银平の心中を察するはずもなく、背の低い肥(ふと)った体をせり出し、
                        「万表课长さん、今、常务さんにも、何とか今月、二十日払いの支払手形を落す二亿ほどの工面をお愿い致してますのやけど、课长さんからもお頼みしておくれやす」
                         亲子ほど齢の开きがある银平に、椅子(いす)からたち上って、体を二つ折りにして頼んだ。
                        「二亿もの资金手当をそんなに简単に云われては困りますね、仆はあなたの说明に、纳得しかねる点がありますから、もう一度、资金缲りがつかなくなった理由を、端的に说明して下さい」
                         银平は烟草の烟をふっと吐き出しながら云った。
                        「ほんなら、私が说明させて戴(いただ)きます」
                         さっきから太平社长の横で、背を屈(かが)めて恐缩しきっている経理担当の専务が口を开いた。
                        「それは先日来、ご说明致しておりますように、去年、宝冢(たからづか)と川西(かわにし)の新兴住宅地に二カ店、店舗を増やしましたが、土地の买付费が予想以上に嵩(かさ)んで、运転资金を圧迫しているのが最大の原因でして、决して売上の钝化といったような経営不振に繋(つな)がるものではございません、その点のご理解をとくとお愿い致したいのです」
                         と说明すると、社长の太平も、
                        「现に、先月一月の売上高は七亿二千万円で、平均の月商七亿五千万をやや下回りはしましたが、今年の暖冬异変が原因で、これから春物にシーズンがわりしますと、売上高はじきに回复しますし、半年后には、尼崎(あまがさき)と明石(あかし)の二カ店が开店五周年を迎えて、ますます好调に伸びていますので、年商百亿の目标も今年中に达成できそうだす、ですから、ここは一つ、もう一回だけ无理を闻いて欲しおます、お愿いします」
                         现在の资金缲りの悪さがあくまで一时的なものにすぎぬことを弁じたて、何とか二亿の资金手当を引き出そうとする様がありありと见えた。
                        「それなら、担保は何を入れるのですかね」
                         渋野常务が闻いた。
                        「担保、それは……さし当って今まで差し入れている担保の中に、土地の急激な値上りで、当初の评価を相当、上廻っておるものもありますよって、そのふくみをご勘案の上、この度のところは……」
                        「担保なしと云うわけですか、それじゃあ话になりませんな、サブ.バンクの神戸相互さんに、この际、少し面倒をみて贳ってはどうですかね」
                         と突っ拨(ぱ)ねると、それまで平身低头していた太平社长も、さすがにぐっと来たのか、金縁眼镜の下の细い眼を瞬(しばたた)かせ、
                        「うちと阪神さんとのお付合いはかれこれ七年で、おたくの创立四十周年に当っては、预金担当の方から拝み倒されて、うちも随分、无理して预金をさして贳うてますし、これまでのお付合いを思うて、何とか助けて欲しおます、たった一回や二回の踬(つまず)きでそんなきついこと云いはるのは、酷过(むごす)ぎます――」
                        


                        IP属地:上海38楼2011-09-29 19:50
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                           かきくどくように云うと、
                          「そんな泣き落しより、もうお话しになってはどうですか」
                           银平が冷やかな声で云った。太平社长はその言叶の意味が呑(の)み込めぬように小首をかしげた。
                          「当行にお隠しになっていることがおありでしょう、正直に云って戴きたいですね」
                           言叶は郑重(ていちよう)であったが、容赦のない锐い响きがあった。専务の方は一瞬、动揺の色をうかべたが、太平社长は、
                          「隠しだてなど、めっそうな、一体、何のことでおますやろか」
                           真底(しんそこ)、心当りのないような颜付をした。
                          「そうですか、じゃあ、お伺いしますが、おたくは最近、东京系の富士ストアにお客を取られて売上が大分、低下しているのではないですか」
                           银平は、さり気ない语调で切り出した。城攻めにたとえれば、まず三の丸を攻めにかかったのだった。
                          「そんなことおまへん、富士ストアがいくら安売りで押して来ても、なんし、うちは十年来の老舗(しにせ)で、地元のお客はがっちり掴(つか)んでますよって、先月、暖冬异変で一时的に売上が低下したとはいえ、全体的にはむしろ顺调に伸びてまっせぇ」
                           唇に唾(つば)を溜(た)めて抗弁した、银平はむっと生理的な厌悪感を催して来るのを抑え、
                          「それじゃあ、当座预金の入金が落ちて来ているのは、どうご说明になるのです? ここ半年间の入金额から逆算すると、おたくの月商は、七亿どころか六亿位にしか思えませんがね」
                          「そら万表课长さんの何かの勘违いやおまへんか、うちはおたくから総借入金の六割をみて贳ってますよって、月平均の売上七亿五千万円の六割は、毎月ちゃんと入金さして贳うてるはずでおます、なあ、そうやな」
                           傍らの専务を顾みて云うと、専务も强く颔(うなず)いたが、银平の眼には冷やかさが増した。
                          「そんな见えすいた嘘(うそ)を并べても駄目ですよ、こちらにはちゃんと资料が揃っていて、おたくが水増しの売上を报告していることぐらい、解っておりますよ、次に、おたくの仕入先筋の方で、近顷、太平スーパーは急に払いが悪くなった、これは何かあるのではないかということで、商品の纳入を警戒しているという噂(うわさ)があるのを、ご存知ですか」
                           売上高に次いで、支払勘定という二の丸を攻めにかかった。
                          「そんな阿呆(あほ)なこと! 富士ストアが故意に流している悪质なデマだすわ」
                          「しかし、现におたくの支払手形の金额が以前にくらべて増えてきているのは事実で、手形のサイトも长くなって来ているじゃありませんか、これからすると、仕入価格もおたくから报告して戴いているのより、実际は相当、悪いように思われますが、如何(いかが)です」
                           太平社长は、狭い额に汗を渗(にじ)ませ、弁解の言叶を探すように口もとを动かした。太平スーパーにとって、乗るか反(そ)るかの事态だけに、绝対に本音は吐けない。なんとか云い抜けようとする苦しいあがきが见て取れたが、银平は、动かない眼(まな)ざしで、追打ちをかけた。
                          「しかも、一番不思议なことは、ここ一年间のおたくの支払手形の受取人の颜ぶれを调べていると、最近、仕入とはあんまり関系のないところが混じっており、金额もかなりの额のようですね、一体、どういう取引で、こんなに金が动くのですか?」
                           暗に金融手形が混じっていることを指摘し、一挙に最后の本丸を攻め落そうとした途端、太平社长と専务の颜がみるみる青ざめ、体が震え出した。経営者にとって、金融手形や融通手形を指摘されることは、泥棒呼ばわりされることと同じであった。それだけに、それを云う侧もよほどの覚悟がなければ、切り出せない。
                          


                          IP属地:上海39楼2011-09-29 19:50
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                            「じゃあ、大阪重工の安田さまのお嬢さまにお定め致しましょう、安田さまなら、财界人としてのお家柄と云い、ご资产と云い、ご一族、三代に遡(さかのぼ)ってのご亲戚(しんせき)もごりっぱで、これでお父さまもご安心なさいますわ」
                             すかさず、银平の言叶を抑え込んだ。
                            「どうぞ、ご随意に、これであなたの闺阀(けいばつ)作りの点数が、また一点上りましたね、兄と姉に続いて、今度は仆、そしてそのあと二子、三子と、あなたは何年かごとに、万表家の闺阀作りをして愉(たの)しみ、仆たちはそれに翻弄(ほんろう)されるんだ――」
                            「まあ、翻弄だなんて――、まさか、あなた方は自分たちと全く异(ちが)った阶层の方と结婚しようなどとは、本気で考えたりなさらないでしょう、それとも甘いセンチメンタルな気持で、闺阀结婚を否定しようとでもなさっているの?」
                             银平の颜に白い笑いがうかんだ。
                            「とんでもない、仆は、闺阀こそエリート社会を泳ぐための、より有効な手形であるとさえ思っておりますよ、ただ、その手形をあなたから発行されることに、こだわりを感じているだけですよ」
                            「まあ、なんて云い方をなさるのです、私が闺阀作りを真剣に考えるのは――」
                            「万表家の繁栄のためと云いたいのでしょう、でもほんとうにそれだけですかね、仆は他(ほか)に、あなた自身も気付いていない、何かもう一つの理由が、あなたを闺阀作りに热中させているような気がする――」
                             银平の声には阴湿な暗さがあった。
                            「どうしてそんな云い方をなさるのです、私がここへ来た顷のあなたは、少し神経质すぎるところはあったけれど、素直で明るい少年でしたわ、それがいつごろからか、急に変ってきてしまって――」
                            「そうです、仆もそんな気がします」
                             银平は、母が自杀未遂した日を境にして、自分の性格が変ったことを知っていた。
                             银平がまだ少年だった冬の或(あ)る夜、激しい木枯しの音のなかで、异様な人の気配に眼を醒(さ)ました。廊下へ出ると、母の寝室に向って走る人影が见えた。银平は、とっさに母が急病だと思った。母はここ暂く子供たちとも殆ど口をきかず、塞(ふさ)ぎ込んでいたからだった。すぐ母の寝室へ駈(か)けて行くと、その时はまだ健在だった执事の松井が、扉(とびら)の前にたちふさがって、「お母さまは心臓発作を起されたのですが、お医者さまがお见えになったから、もう大丈夫です、お部屋へお帰りになるよう」と寄せつけず、后から駈けつけて来た姉の一子ともども、その部屋に入れなかった。仕方なく不安な思いで各自の部屋へ帰ったが、银平は気持の昂(たかぶ)りがおさまらず、来客用の寝室のベランダから一阶の屋根に降り、父の书斎の上まで行くと母の寝室が覗(のぞ)けることを思いつくと、パジャマの上にセーターを着て、そっと母の寝室が见通せるところまで这(は)って行った。そして、ガラス戸越しに母の异様な姿を见た。
                             执事の松井は心臓発作と云ったが、ベッドに仰向いた母は鼻にゴム管を差し込まれていた。そして、傍らの看护妇が持っている筒状のガラス器から透明な液がたえず母の鼻の穴へ流し込まれ、看护妇がそのガラス器の位置を低くすると、黄色く浊った液が母の体内からガラス器へ逆流していった。ガラス戸越しの银平にも、そのとき、母が毒物か睡眠薬を饮んで、胃を洗涤(せんじよう)されているのだと解(わか)った。その间、父と高须相子は身动き一つしない母の枕(まくら)もとに列(なら)んでたっていたのだった。医者や看护妇、それに女中たちが慌(あわただ)しく动いている中で、相子がそっと父の方へ体を寄せ、薬瓶(くすりびん)らしいものを示して何かを嗫(ささや)いた。その瞬间、母を见守っていた父がその薬瓶を手にとると、にべもなく床へ投げ舍て、まるで他人を见るような眼で母を见た。それは银平にとって、父亲の颜ではなかった。银平は屋根から坠落しそうな冲撃を受けたが、その日からかなり大きくなるまで、银平は木枯しの吹きすさぶ夜になると、时々、ベランダから屋根伝いに母の寝室を覗きに行き、母の安らかな眠りを确かめないと寝られなくなった。银平は、その时のことを自分の心にだけ秘めていたが、次第に自分の気持が顽(かたく)なに内に向って闭ざされるようになり、父亲さえ信じることの出来ない、何事に対しても傍観者の姿势しかとれない性格になったのだった。
                            


                            IP属地:上海42楼2011-09-29 19:50
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                              「昨日、当行へ来られた时、お闻きしかけた不审な支払手形の件ですがね、おたくの社长があまりに昂奋(こうふん)されたので、あれ以上お闻きするのを差し控えたのですが、それは、この支払手形帐簿にも载っている门脇(かどわき)商事のことなんですよ、そことおたくとは、どんな取引がおありなんですか?」
                               と诘问(きつもん)した时、扉(ドア)が开いて、太平社长が苍惶(そうこう)とした様子で入って来た。一旦、逃げの术(て)を打ったものの、そこは自分一代で筑き上げた事业であったから、気になって帰って来たらしい。硬(こわ)ばった雰囲気を感じ取ると、わざと惚(とぼ)け面(づら)で専务を见、
                              「一体、どないしたんや、えらい难かしい颜をして――」
                              「いえ、别に――、今、门脇商事のことを……」
                               専务が戸惑い気味に云いかけると、
                              「ああ、あれでっかいな、そらご不审に思われても仕方おまへんわ、门脇商事という名前はけったいだすが、二年程前に、京都の织元と提携して和服のレデエ〔#「エ」に傍点〕.メエ〔#「エ」に傍点〕ドを始めた新しい会社で、うちなどの衣料品スーパーには、打ってつけのとこですよって、去年からとんとん拍子に取引が始まったんだす」
                               昨日の取り乱しようとは打って変った落着き方で申し开きをした。
                              「ほう、和服のレディ.メイドの会社なんですか、和服なら去年の九月顷から、この一月までに総计七千万近い取引があっても当然なわけですね、よく売れていますか?」
                              「そらもう昨今はなんせ、レデエ〔#「エ」に傍点〕.メエ〔#「エ」に傍点〕ド时代ですよって」
                              「それは结构です、ところで、仕入台帐に、この门脇商事は记帐されているだろうね」
                               银平は二人の调査员を顾みて闻いた。もし仕入台帐に记载されていなければ、门脇商事の支払手形は、商取引のものでないことが证明出来るわけだ。
                              「记载されています、仕入回数と、支払手形を振り出した回数も合致してます」
                               调査员が帐簿を见ながら応(こた)えると、
                              「ほれ、ちゃんと合うてますやろ、けど、ご不审の点は彻底的に调べてはっきりして贳(もろ)うた方が、うちとしても気持がよろしおますわ」
                               太平社长は、颜中を笑い皱(じわ)にし、声を上ずらせた。银平は一瞬、怯(ひる)みかけたが、
                              「それはどうも、では社长のお言叶通り、念のために仕入伝票と注文书の缀りを见せて戴きましょう」
                               と云うと、俄(にわ)かに太平社长の颜から笑いが消えた。持って来させた仕入伝票にも、注文书にも、门脇商事の名前は皆无だった。
                              「どういうことですか、これは――、ここに积まれているのは、二重帐簿じゃありませんか」
                              「そんな……まるで税务署みたいな云い方やおまへんか」
                               太平社长も开き直るように云い返した。営々として筑き上げてきた自分の事业を生かすも杀すも、ここが胜负という切迫感があった。しかし银平はじっと相手を见据え、
                              「银行は信用取引ですからね、そちらが悪质な粉饰をして事実をあくまで隠す腹なら、もはや当行としては手を引くより仕方がありません」
                               と云い放った。主力银行の阪神银行が手を引けば、さし当って二月二十日払いの二亿の支払手形が不渡りになり、太平スーパーは倒产することになる。太平社长の皱だらけの颜が引きつれた。
                              「――申しわけおまへん、门脇商事というのはご推察通り、高步(たかぶ)业者でおます」
                               遂(つい)に金融手形であることを认めた。
                              


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