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回复:【原著】日语版『华丽なる一族』上、中、下(带假名哦~)

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 三   章
 阪神银行本店の讲堂では新入行员の入行式が行われていた。
 咳(しわぶき)一つなく静まりかえった讲堂の正面坛上には、向って左侧に万表头取以下七名の役员、右に人事部长をはじめ十二名の部长がずらりと居列(いなら)んでいる。そして、神戸港を象徴する绀碧(こんぺき)の地に波涛(はとう)を思わせる三本の曲线をくっきりと染めぬいた大きな行旗が中央に掲げられていた。
 式次第を进めている人事课长の声が一段と改まって、
「只今(ただいま)から、头取のお话を承ります」
 と云(い)うと、新入行员たちは、威仪を正して、万表头取を迎えた。银髪端正な头取が行旗の前にたつと、それだけで威风あたりを払い、新入行员たちは信用と品位を重んじる银行という企业に入った自负心を今さらのように感じる。万表はそうした新入行员たちの心理をすべて熟知した上で、重々しく口を开いた。
「皆さん、ご入行おめでとう、学园纷争の中で学业を続け、今また入行试験の难関を突破されて来た诸君を、われわれの职场に迎えることが出来ることは、まことに嬉(うれ)しく、力强く感じる次第です、银行员たることを自らの职业として选び、これから活跃されんとする诸君に、头取として一言、激励の言叶をお赠りしたい」
 そこで一旦(いつたん)、言叶を切り、一同を见廻した。二百名の新入行员のうち八十名が大学卒、百二十名が高校卒で、人材即资产、即生产设备ともいえる银行にとって、新规采用者への期待はどこよりも大きい。
「银行は、信用を売り、信用を买う仕事であります、つまり命の次に大切と云われるお金を预かり、有利に运用して信用を得る仕事であるから、银行経営は何よりもまず坚実であらねばなりません、しかし坚実であると同时に、积极的であれというのが私の持论であります、坚実性と积极性は必ずしも両立しない场合があります、坚実のあまり萎缩(いしゆく)してしまっては前进がなく、また前进し过ぎて破绽(はたん)を来たすのでは坚実性に欠けますが、この両者を兼ね备えることが银行経営の要谛(ようたい)であると思います。
 最近、金融再编成の促进がやかましく取沙汰(とりざた)されている中で、银行间の竞争はますます激甚(げきじん)になる一方であります、それだけにわれわれは坚実性と勇気を持って银行竞争に打ち克(か)ち、近い将来、必ずや业界における当行の地位を向上させるという使命を、役职员一同、强く持たなければなりません、したがって小成に安んずるという考えの人が、もしこの中にいるとすれば、それは当行の行风に合わぬ人であり、今からでも遅くないから去って戴(いただ)きたい、しかし金融界の今后の激动期に、当行の一员として大いに実力を磨き、能力を発挥したいと思う人物には、当行は充分酬(むく)いるに吝(やぶさか)でない、当行の人事方针は一切の学阀、门阀に捉(とら)われず、実力精锐主义をもって贯き、诸君の卓抜した仕事に対して必ず正当なる评価をもって応(こた)えることを、ここに约束し、诸君の大成を祈ります」
【 日本大观园 www.book118.com 】友情整理
 头取の言叶は、若い新入行员たちの心を魅了した。
 入行式が终了すると、万表は爽(さわ)やかな表情で头取室へ戻った。恒例の行事ではあったが、経営トップ、ことに万表のようなオーナー头取にとって、毎年、新しい人材を入れ、规模を拡大していくことは、大きな充実感と自信が涨(みなぎ)る时であった。
 回転椅子(いす)に深々と体を埋(うず)め、叶巻をとり出して、ほっと一息つくと、秘书の速水が入って来た。



IP属地:上海98楼2011-10-19 20:13
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    「速水君、今日はどこも入社式で、来客はないし、行内の会议もないし、午后から久しぶりにゴルフの手ほどきをしてやろう、それまでに仕事を片付けておき给(たま)え」
     烟を吐き出しながら、上机嫌に声をかけると、速水は秀(ひい)でた额の下に柔らかい笑いをうかべ、
    「では、お言叶に甘えさせて戴きますが、头取はその前に、一つお仕事をおすませ下さい、毎朝新闻の榎本(えのもと)记者が、入行式のことで取材に来られています」
    「ああ、榎本君か、彼なら会おう」
     毎朝新闻の榎本记者は、万表が昵恳(じつこん)にしている経済记者の一人であった。万表が概してマスコミにうけがよいのは、経営者としての优れた资质もさることながら、常々、政治家と官僚とマスコミの三者対策を遗漏(いろう)なく进めておけばたいていのことは罢(まか)り通るという万表一流の考えで、マスコミにも接しているからだ。しかも相手が経済记者なら、思いがけない企业情报を得る场合もある。
     榎本记者は慌(あわただ)しく入って来るなり、
    「头取、急ぎの记事で恐缩ですが、今日の夕刊で、今年の新入社员への“社长名言集”を特集するのです、头取の训话の概略は、今、速水さんから闻いたんですが、要は坚実をモットーとする银行界において、阪神银行の万表头取は“勇気なき者は去れ”という话をされたということですね」
    「まあ、そんなところですが、银行家は、私の他(ほか)に、どんな人が入るのですか?」
     さり気なく闻いた。
    「富国银行の巌头取です、毎年、ドイツの哲学者の高迈(こうまい)な言叶を引用して话すのがお好きのようですが、あの政治的言动の多い头取が、カントの、ショーペンハウエルのと云い出すかと思うと、歯が浮きますね」
     榎本记者は、辛辣(しんらつ)に云い、
    「ところで头取、富国银行の関西における最近の动きは、少しおかしいと思われませんか?」
     当然、万表がその动きを察知しているかと思い込んでいる口调で闻いた。万表はとっさに何のことかと闻き返しかけたが、口を噤(つぐ)んだ。同业の动き、特に上位四大银行に関する情报は、金融再编成の问题があるだけに、どんな些细(ささい)なことでも、知っておきたかったからである。榎本记者は、
    「东京の金融界では、富国银行が远からず系列下の地方银行を合并するというようなことが流布(るふ)されていますが、仆の勘では、あれはゼスチャーに过ぎませんね、本心はあくまで都市银行间の大型合并をやりたがっており、频(しき)りに関西系の银行を物色している感じですよ」
     确信ありげに云った。万表は、内心、动悸(どうき)が鸣るような惊きを覚えたが、
    「榎本さん、いやに自信ありげな推理じゃありませんか、で、富国银行が结婚したがっている相手は、どこだと思うのですかね?」
     平静を装い、じわりと闻いた。
    「さあ、そこまではまだ解(わか)りませんが、あの银行のことだから、これと狙(ねら)ったら、二年でも三年でもかけて、真绵(まわた)で首を绞めるようなじわじわしたやり方で、呑(の)み込んでしまうでしょうな」
     榎本记者はそう云って笑ったが、万表は応えず、窓外へ眼を向けた。その时、机の上の电话のベルが鸣った。秘书课経由ではなく、外からの直通电话であった。榎本记者は、それを机会(しお)に、
    「じゃあ、夕刊缔切の间际(まぎわ)ですから、これで失礼します」
     足早に出て行った。万表は扉(ドア)が完全に缔まりきってから、受话器を取った。
    


    IP属地:上海99楼2011-10-19 20:13
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       大阪ロイヤル.ホテルの十五阶にあるロイヤル.トップのステージでは、ジュリエット.グレコの『シャンソンの夕』が开かれていた。
       ステージを囲む三十近いテーブルに、ダーク.スーツを着た男性やカクテル.ドレスを着饰った女性たちが席を占めていた。万表银平と安田万树子もステージに近い席を占め、カクテルを饮みながら、本场のシャンソンに聴き入っていた。
       ステージでは第一部が终り、第二部に入って、『爱の讃歌(さんか)』が呗(うた)い出された。二色のライトが交错する中で、真っ黒に光るドレスをまとったグレコは、栗色(くりいろ)の长い髪を肩まで垂らし、マイクを胸に抱くようにして呗っている。
      「いいわね、まるでパリのナイト.クラブにいるみたい」
       万树子は、カクテル.グラスに口をつけながら、そっと银平の肩へ体を寄せるようにして嗫(ささや)きかけた。见合いをしてから一カ月経(た)っていたが、万树子とデートするのは、今日で二度目だった。万树子からは三日にあげず、电话がかかって来ていたが、银平は仕事の多忙を口実に避けていた。别に万树子を嫌っているわけではないが、目だちすぎるほど派手な服装をした万树子と并んで步くことがやりきれないのだった。今夜も、银ラメのリボンレースのカクテル.ドレスに、银色の靴を履いた万树子の姿は、人目にたち过ぎ、香水も二十三歳の未婚の女性にしては浓艶(のうえん)であり过ぎた。
       ステージに眼を向けると、グレコの歌はブルーのスポット.ライトの中で、『枯叶』に変った。痩(や)せぎすで知的な容姿であったが、心で呗うその声は、聴く者の心を深く包んで酔わせる。银平はふと、まだパリにいるだろう小森章子のことを思い出した。まる三年、体の交渉を持ちながら、一言も结婚を口にせず、最后に「パリで以前の自分を取り戻して来るわ」と云い、絵の勉强に渡仏してしまった小森章子のことを思うと、银平は结婚そのものが面倒であったことと、さほど大きくない滩の酒造家の娘と结婚に漕(こ)ぎつけることの烦(わずら)わしさから、そのまま别れたとはいえ、今、安田万树子との结婚を目前にし、苦渋に似た思いが横切った。
       スポット.ライトがステージの上のグレコの姿を消し、激しい拍手の中で、『シャンソンの夕』は终った。テーブルを埋めた人々は、口々にグレコの呗を讃(たた)えながら席をたった。
      「万树子さん、ご机嫌よう――」
       华やかな声がし、若い女性が万树子のそばへ近寄って来たが、银平の姿に気付いて、
      「あら、ご免なさい、お邪魔して――」
      「いいのよ、ご绍介致しますわ、私の婚约者(フイアンセ)の万表银平さんですの、こちらは女学院时代の同窓生の吉野春子さん――」
       万树子は双方を绍介した。
      「はじめまして、万树子さんのスキー仲间の悪友なんですの、でもご结婚游ばしても、どうぞ悪友をお见舍てなく――」
       背の高い女性は、快活に笑った。
      「万表です、よろしく」
       银平は、无爱想にそれだけ云うと、女たちのお喋(しやべ)りにつき合わされるのを避けるように、さっさと阶下の驻车场へ降りて行った。
       マーキュリーを运転する银平は车の流れを巧みにきり抜け、出入(でいり)桥の高速道路にのった。小雨がぱらつきはじめ、高速道路のオレンジ色のライトが润(うる)むように光っている。万树子は助手席に体をもたせかけ、
      「よかったわね、今夜のグレコ、それにロイヤル.トップのあの雰囲気(ふんいき)もすばらしかったわ」
      


      IP属地:上海101楼2011-10-19 20:13
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        「お母さまは、どうしてそんな风におっしゃるの、高须相子さんという方はすばらしい人よ、私は正直なところ、雏坛(ひなだん)の饰り雏のような华族出のお母さまより、英语、フランス语がペラペラの才色兼备の高须さんに好意を持つわ」
         万树子は结纳纳めの翌日、仲人の伊东夫人の家で高须相子と出会ってイヴニング.ドレスやカクテル.ドレスの相谈をした时、彼女の好みの良さとマナーの详しさにすっかり魅了されたことを思い返した。その高须相子に外国流の洗练された家庭教育を受けた银平は、さらに好ましい存在に思えたが、それにしても最前、车の中で、「过去に好きな方でもおありだったの?」というさりげない问いに対して、「その点は、あなたも仆と一绪じゃないですか」と云った银平の言叶は、万树子の気になった。
         しかし、尾形贤一と自分とのことは、绝対、谁にも知られていないという确信が、万树子にはあった。
         万树子が、尾形贤一を知ったのは、大学のスキー部の合宿で志贺高原へ行き、たまたま同じ山小屋に大阪の大学から合宿に来ていた尾形たちのスキー.クラブと出会った时であった。その中で、背の高い、筋肉质の逞(たくま)しい体をぴったりとスキー服に包み、急斜面を雪烟を上げて大胆に滑走する尾形贤一の男性的な美しさに眼を夺われたのだった。しかも彼は学生スキーで常に入赏し、女子学生たちの注目を集めていた。しかし尾形自身は、寡黙(かもく)で无骨な性格であり、コーチを頼まれれば、亲切にコーチした。派手好きな万树子は、尾形のコーチを受けながら、尾形のように众目を集めている男性が自分の恋人であれば、どれほど夸らしいかと思い、积极的に尾形に甘えた。そんな万树子に、尾形は甘ったれのブルジョア娘と苦笑しながらも、好意を抱いたようだった。そして、これが学生生活最后の合宿という冬の或(あ)る日、互いの部员たちがゲレンデへ出払ってしまった人気(ひとけ)ない山小屋の一室で、どちらからともなく体を重ね合せてしまったのだった。その时、窓から雪の反射光が射(さ)し込み、掩(おお)いかぶさった尾形の逞しい背の上に、真っ白い光が目眩(めくるめ)くように辉いた情景が、今も万树子の眼に鲜やかに残っている。冬休みが终ってからも、万树子は尾形との秘かな交渉を続けていたが、彼が大学を卒业して、一流企业の就职试験に失败し、二流の食品会社に就职した顷から、万树子の眼には、スキー场で学生スキーヤーとして众目を集めていた尾形が、俄(にわ)かに、凡庸な小市民的な人间に见え、さらに二人の経済的环境の违いも加わって、次第に龃龉(そご)を来たしはじめたのだった。尾形は深刻に苦しんだが、万树子は、最初から父の财力と社会的地位によって间违いなく保证される结婚を选ぶことにしていたから、至极あっさりと别れを告げてしまったのだった。だから、先刻(さつき)、万表银平が、过去に好きな人があったかもしれないのは、お互いさまじゃないかという意味のことを云ったのは、彼一流の自嘲(じちよう)めいた皮肉かもしれないが、もしや、高须相子がどこからか闻き知っていながら、わざと知らぬふりをしているのではないかという一抹(いちまつ)の不安が、万树子の胸を捉(とら)えた。
         万表家の広大な庭の一角に、煌々(こうこう)と夜间照明が点(つ)き、银平の结婚后の新居のために、日本馆の半分を取り壊して南欧风の洋馆に改筑する突贯工事が进められていた。鉄骨の打込みや、コンクリート.ミキサーの音が周囲の静まりの中で鸣り响いている。
         高须相子は、自室の窓から工事现场の様子を见遣(みや)りながら、シャツ.ブラウスに、スラックスという甲斐甲斐(かいがい)しい姿で、机の上の受话器を取り、阪神特殊钢の社长で银平の叔父である石川正治に电话をしていた。
        


        IP属地:上海105楼2011-10-19 20:13
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          「ええ、当方も今日は朝から银平さんの结婚披露宴の名簿作りを致しておりますの、ご亲戚(しんせき)、知人、友人はあげればきりがありませんが、企业関系の方は、まだ大分、増えるようなご様子ですか? それとも――、ええ、承知致しました、それによりまして、うちわの方のお人数はしめなくてはなりませんので――」
           政、官、财界の来宾や、阪神银行をはじめ阪神特殊钢、万表商事、万表不动产、万表仓库など関连企业の招待客については、石川正治が中心になって取りまとめ、家内(いえうち)の関系は相子が取り仕切っているのだった。
           电话を切ると、相子は足どりも軽く、阶下へ降りて行った。银平の结婚式の准备も、新居の工事も着々と进んでいることが、相子の気持を晴れやかにしているのだった。
           居间に入ると、テーブルの上に、作りかけの名簿がきちんと置かれていたが、宁子の姿は见えない。先程、食堂で颜を合わせた时、宁子の方から食后すぐに名簿作りを始めましょうと云っていたのに、もう八时を廻っている。相子はふと居间の続きになっている広间を覗(のぞ)くと、そこに宁子がいた。饰棚の正面に置かれている结纳の受书(うけしよ)、长熨斗、末広が载った白木の台から、奉书纸にしたためられた受书を手に取り、うっとりと见惚(みと)れるように见入っている。それは万表家から、仲人の伊东夫人の手を経て、安田家へおさめられた结纳金、金五百万円也(なり)と三カラットの婚约指轮に対する安田家の受书であった。
          「宁子さま!」
           声をかけられると、宁子は惊いたように振り返り、受书をもと通りに白木の台の上に置いて、すぐ居间の方へ入って来た。
          「もう八时を过ぎておりましてよ、ご亲戚関系の方は、いかがなさいまして?」
           昼の间に一応、下选(したよ)りをしておいてほしいと、宁子に頼んでおいたのだった。
          「それがまだ出来ていませんの、どなたにご远虑して戴(いただ)けばいいのか、よう解(わか)らなくて――」
          「まあ、お昼から申し上げておいたじゃありませんか、私の方は、银平さんの恩师、友人関系のリストをほぼ仕上げましてよ、ご亲戚関系はあなたがなさるのが当然じゃありませんか、それにあなたのお実家(さと)筋のこととなると、私はさっぱり存じ上げませんもの――」
           暗に、旧华族という肩书以外にこれという企业家も有名人も见当らぬ宁子の実家で人员调整をすればいいと云わぬばかりの云い方をしたが、宁子はおっとりとした口调で、
          「ほんとうに、あなたは、何でも手早(てばよ)うにお出来になるのね、私ってどうしてこんなに何も出来ないのでしょう――」
           白い颜をかしげた。
          「首などかしげていらっしゃる时じゃありませんわ、披露宴は、関西だけでなく、东京でも致しますし、その时は、大蔵大臣をはじめ、政、财界のお歴々もご出席下さるのですよ、石川正治さまをはじめ银行の秘书课の方は、その方面のことで手一杯ですから、うちわのことは、あなたと私とでちゃんと运ばねばなりません」
           东京は帝国ホテルで、大阪は新大阪ホテルで、披露宴が行われることになっているのだった。
           亲戚関系の名簿を前にして、なすこともなく、つくねんと坐(すわ)っている宁子の姿を见ると、相子は腹だたしい思いがした。
          「少しは、しっかり游ばして下さいましな、鉄平さん、一子さんの结婚式に次いで、今度で三度目ですから、见よう见真似(みまね)でもお出来になるはずじゃありませんか」
          「ですけれど、私は、ご亲戚筋ともあまりおつき合いが无(の)うて、名簿のお名前を拝见しても、どなたがどういうご縁続きだか、见当がつかない方もあって……」
          


          IP属地:上海106楼2011-10-19 20:13
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             六甲山の朝は、四月初旬というのにまだ霜柱がたち、肌寒い。
             万表大介は、カシミヤのセーターの上に厚手ウールのガウンを羽织り、スリッポンの靴裏で霜柱を踏みしだきながら、山荘内の雑木林をゆっくりと步いていた。辺りは野鸟の羽搏(はばた)きと啭(さえず)り以外、森闲と静まり返り、山全体がまだ冬の眠りから醒(さ)めきっていない。
             莺(うぐいす)の鸣声で、大介は足を止め、左手の深い谷の方へ视线を向けた。莺は见えなかったが、夏に闻く音色より澄んで美しい。六甲山の自然も、ここ数年、目に见えて荒れ、野鸟も少なくなったが、万表家の山荘がある圣者の道(シユライン.ロード)の辺りは、まだ自然の美しさが保たれている。万表家の山荘は、先々代の龙介の代に、一山いくらの単位で买い入れたから、谷や沢を含めて十数町步にわたり、六甲山のたいていの野鸟と植物に恵まれていた。
             大介は、再び山荘内の雑木林の中を步きながら、腕时计を见た。十时半を廻っている。日曜日の今朝、七时半に冈本の邸(やしき)を车で出、久しぶりに六甲山の山荘へ来たのは、静养のためではなく、娘婿の大蔵省主计局次长の美马中を东京から呼び寄せ、秘(ひそ)かに会うためであった。约束の时间は十一时だから、今顷、美马はもう大阪伊丹(いたみ)空港から六甲山へ向っているはずであった。雑木林を抜け、山荘の前庭に戻って来ると、
            「旦那(だんな)さま、もう中へお入りになりはった方がよろしおます、お体が冷えまっさかい」
             シャベルで庭の盛土を直している管理人が、远くから声をかけた。
            「いや、少し汗ばんで来たぐらいだ、そろそろ、美马もつく顷だろう」
            「へえ、そう思うて、家内(かない)がお部屋を暖こうにしておりますよって」
             勤めてからもう十五年になる管理人は、素朴な口调で応えた。
             テラスから、南向きの広间に上ると、大介は、薪(まき)が燃えている暖炉の前のロッキング.チェアにどっかりと腰を下ろした。広间の壁面はすべて生节(いきぶし)の桧(ひのき)の乱张りで、天井には一抱えもある太い松の梁(はり)が通り、山荘らしい野趣が溢(あふ)れている。
             パイプに叶を诘めかけると、车の音がし、ガラス戸越しに下の门からS字型に曲った道を上って来る车が见えた。
            「やあ、日曜日というのに、すまなかったね」
             大介はパイプを片手に、舅(しゆうと)らしい犒(ねぎら)いの言叶で迎えると、美马は鞄(かばん)一つ持たぬ軽装で、
            「お待たせしたのではありませんか、飞行机が二十分程遅れましたので――」
             と云い、大介の横に腰を下ろした。
            「シーズン.オフの山荘というのも、なかなかいいものですね、下界は桜が満开というのに、こうして人気(ひとけ)のない処(ところ)で、暖炉を焚(た)きながら、莺の鸣声に耳をすますなんて――」
             美马が軽くロッキング.チェアを揺すりながら寛(くつろ)ぐように云うと、大介は运ばれて来た红茶にブランディを滴(た)らし、
            「冈本の邸でもよかったんだが、银平の结婚准备や新居改筑などで、何かと騒がしく、落ち着かなくなってね、永田大臣は、东京の披露宴には出席して贳(もら)えそうかね?」
            「ええ、秘书官は、何とか都合をつけると云っていますから、まず大丈夫でしょう、当日は、富国银行の巌头取もお招きするんですか?」
             美马は女のような色白の颜に、微妙な笑いをうかべて云った。
            「当方にとって招きたくない客でも、相手が全国银行协会の会长となれば、来て贳わないと画龙(がりよう)点睛(てんせい)を欠くからねぇ」
            


            IP属地:上海108楼2011-10-22 23:02
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               苦々しげに云い、手にしていた红茶茶碗(ぢやわん)をサイド.テーブルの上に置くと、
              「それで中君、この间、电话で话したように富国银行から申し入れがあった预金の相互受払いの业务提携だがね、君はどう考えるかね、当行にとってメリットがありすぎることをもって、ただちに富国银行が当行との合并をもくろむ布石と考えるのは、早计过ぎるだろうか?」
               入行式の日、东京事务所长の芥川常务から、そのことを电话で报(しら)せて来た时、背筋が冻るような不安感に駈(か)られたことなど気振(けぶ)りにも见せず、平静な様子で闻いた。
              「その预金の相互受払いの业务提携を持ち込んで来る前にも、クレジット.カードや新种预金の业务提携を云って来たんでしたね」
               元银行局银行课长であった美马は、念を押すように云った。
              「そうだ、二月に万表商事が吸収した太平スーパーと、富国银行がメイン.バンクである富士ストアとが、业务提携した时、银行间でも二パーセントの株の持合いをしたんだが、それ以后、どうも通常のコマーシャル.ベースを越えた过度の便益供与が多过ぎる、つまり、ラヴレターが来すぎるように思うのだ」
              「それで、融资関系の方はどうなんです、その方面にも手が廻っているんですか?」
              「融资担当の渋野常务に调査させたところ、当行が九年前から水やり、肥料(こえ)やりで今日まで育てて来た平和ハウスに、先月末、まるで公定步合のような安いレートで、ぽんと七亿円贷し付けたのをはじめ、その他(ほか)の当行の大口取引先にも、积极的な融资态度を示して来ているらしい、しかも芥川からの报告では、富国银行の竹中常务が、マスコミ関系に、当行と富国银行が亲密な仲であることを、故意に捏造(ねつぞう)して流している节(ふし)があるというのだ」
               业务提携を表面に押したてて来ると同时に、阪神银行の大口融资先にも“微笑外交”で接近し、阪神银行と富国银行は亲密な间柄であるという既成事実を作りあげようとしている。ここまで材料が揃(そろ)えば、もはや富国银行が阪神银行との合并をもくろんでいるとみて、ほぼ间违いがなさそうであった。注意深く耳を倾けていた美马も、
              「富国银行は、元来、政治的な动きがうまい银行で、政府その他の公金関系に密着して、大规模な预金の吸上げを行ない、トップ.バンクの座を维持しているのですが、最近、大友银行や五菱银行の飞跃的な跃进で、トップの座が胁(おび)やかされて来たから、今のうちに都市银行间の大型合并をやってのけ、大きく水をあけておきたいというのが伪らざるところでしょう、そうなると、财阀系银行でもなく、日银、大蔵阀でもない都市银行で、しかもただ一人のオーナー头取を拥する阪神银行を狙(ねら)ったのは、的を射てますね、しかし、お舅(とう)さんの方で応じる気持がなければ、それほど気になさることもないでしょう」
               それだけのことで自分を呼んだのですかといわんばかりに云った。大介は赤々と燃える暖炉に眼を遣(や)りながら、この五日间、富国银行の不気味な动きに対する不安を谁にも见せず、独り胸中に畳み込んで来たことを思い返し、暂(しば)し沈思してから、
              「中君、実は、今日は极秘で君と话したいことがあってね、忙しい中をわざわざ东京から六甲山まで来て贳ったのも、そのためなのだ」
               美马の视线を、真っ正面から捉(とら)えた。
              「というのは、なるべく近い时期に、阪神银行に、どこか似合いの婿を见つけて、合并したいのだ、その婿探しに是非とも、元银行课长であった君の智恵(ちえ)と力をかりたい」
              


              IP属地:上海109楼2011-10-22 23:02
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                「婿探し? 花嫁ではなく、敢(あえ)て婿といわれるのですね――」
                 美马は、大介の势いに、ややたじろぐように反问した。
                「そうだ、阪神银行より小さいところではなく、大きいところと合并したいのだ、かといって、もちろん当行が、吸収される合并ではない、対等、もしくはそれを上廻るリーダーシップのとれる合并をやりたい、つまり“小が大を食う”合并を成功させて、配当、利子、店舗の自由化までに业容を拡大しておきたいのだ」
                 万表は眼をぎらつかせ、迫るように云った。
                「しかし、お舅さん、はっきり云って、そんな都合のいい合并など、よほど思わぬハプニングでもなければ、実现不可能な话ではないでしょうか、それとも、具体的に、どこかお心づもりでもおありなんですか?」
                「いや、具体的には、さし当ってない、しかし、二月に『金田中』で永田大臣と会った时、银行合并は、规模の大小だけできめられるものではない、质の问题がある、つまり业容次第によっては、小が大を食うこともあり得るという见解を闻いたのだ、もっとも大臣は、私の気持を暗に察したらしく、そのためには、せめて预金顺位がシングルになっていなければねぇと、意味あり気に付言したがね」
                「ほう、あの时、もうそこまでのお话合いが、出来ていたんですか」
                 美马は、いささか鼻白むように云い、
                「で、阪神银行が、急に预金量を増やして九位になれる目算は?」
                「现在九位の平和银行とは、五百亿の开きがあるが、九千二百人の全行员に夜讨ち朝がけの预金合戦を命じれば、出来ぬ话ではない」
                 大介は、まるで将棋の驹(こま)を动かすように、自信に満ちた声で云い、
                「问题は、食う相手だ、むろん当行が大友银行や五菱银行などの上位行を食えるわけがないのだから、それは问题外として、中位の银行のほんとうの経営内容を何とか洗ってくれないか、大蔵省が银行に讲评する各行の业容と、大蔵省に保管されているそれとは、大分、开きがあるところもあるそうだから、そこのところを知りたいのだ、それを握っているのは银行局以外にないのだからねぇ」
                 そのために日顷、何かと経済的な面倒をみてやっているのではないかというニュアンスを、言外に响かせた。
                「そりゃあ、お舅さんの云われるように各行のほんとうの経営内容を握っているのは银行局以外、ありません、しかし、これは银行局の中でも极秘资料ですから、おいそれとはつつけませんし、无理押しすれば、私自身の立场が困ったことにもなりかねませんからねぇ」
                 鼻にかかった抑扬のない声で云い、暂(しばら)く黙り込んだが、
                「それは非常にお急ぎなんですか?」
                 と云い、上衣の内ポケットからびっしり日程の诘った手帖(てちよう)を取り出した。
                「うむ、急ぐ、出来ればこの一カ月以内にでも、六位の中京银行から、九位の平和银行までの各行の业容を知らせてほしい、そうして洗って贳えば、案外、図体(ずうたい)は大きいが中身はよくない、当行にとって恰好(かつこう)の合并相手が浮かんで来るかもしれない」
                 大介はそう云って、燃えさかる炎の中へ新しい薪を投げ入れた。それは、もはや大介の胸中で、银行合并の火盖(ひぶた)がきられたという事実を象徴するような动作であった。
                 高须相子は、车を运転し、六甲山から大阪の伊丹空港に向っていた。
                 皮のブレザー.コートを羽织り、ネッカチーフを巻いた相子は、いつもよりさらに若々しく、美马と并んでいると、傍目(はため)には、仲の良い中年夫妇の日曜ドライブのように见えたが、相子は大介と美马との密谈が终った顷、山荘へ行き、六甲山ホテルから取り寄せた料理で美马をもてなしたあと、空港へ送って行く途中だった。
                


                IP属地:上海110楼2011-10-22 23:02
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                  「子供さんは、どちらの大学へ?」
                  「それが昨年、今年と続けて东大を失败したのですが、父亲の私に惩(こ)りて、アルバイトして何年浪人してでも、绝対に东大へ入らなければ一生うだつが上らんと、顽张っております」
                   下积みの官僚の父亲と、その息子の姿が、だぶるように美马の眼に映った。
                  「実は、君も知っているうちの舅(おやじ)の阪神银行系列の白鹭(しらさぎ)信用金库に、常务クラスのしっかりした人物がいなくて困っている、谁か人材はいないものかと、頼まれているんだがねぇ」
                   気をもたせるように云うと、田中はひと膝(ひざ)のり出すような态度を示した。しかし美马はわざとさり気なく、
                  「その舅(おやじ)がね、都市银行の六位行から九位行までの経営内容の実态を详しく知りたがっているんだよ、ところが、仆は今、银行局を离れているから、なかなか详しい事情が解らなくてねぇ、弱っているんだよ」
                   ごく軽い调子で云った途端、田中は颜を硬(こわ)ばらせた。详しい事情を知るとなると、検査报告しかない。コピーが欲しいのだということが、田中にはすぐ解った。银行検査の结果は、『讲评』という名で、一応、検査した银行に通达されるが、それは他行にも知れる半ば公的なものであった。ただしそれとは别に大蔵省内にもう一通、详细に记载されている検査报告がある。そこには、その银行の経営内容だけではなく、「头取の融资态度甘し」とか、「头取の私生活に疑问あり」という点まで记入されている场合があり、头取のポストを左右し得る力を握っている大蔵省银行局にとっては极秘情报に属するものであった。美马がいうコピーというのは、それを指しているのであった。
                  「しかし、あれは……、详しい検査报告のコピーは、ご承知のようにマル秘の书类ですから――」
                   田中が颜色を変えると、美马はすかさず、田中の杯に酒を注ぎ、
                  「そりゃあ、君の立场として困ることは解るよ、下手すると、馘(くび)にかかわることだからねぇ、しかし、君の馘の心配は、たしか六年前にも一度したことがあったよなぁ」
                   と冷やかに云った。田中の视线が畳に落ちた。それは六年前、美马が银行课长だった时、田中松夫が行なった小さな汚职のことだった。金融検査官は、银行でコーヒー、红茶以外の接待は一切受けてはならず、昼食に出された丼物(どんぶりもの)の代金も支払わなければならないし、宿泊はその地方の财务局の寮に泊ることが惯行となっている。したがって夜の酒席はもちろん、宿泊の飨応(きようおう)も固く禁じられているにもかかわらず、大阪のさる银行へ検査に行った田中は、キャバレーのホステスと驯染(なじ)みになり、つい女と泊ったホテルの支払いを银行に任せてしまったのである。それを竞争银行と覚しきところからの投书で、银行局へ密告され、问题になりかかったのを、美马がもみ消してやったのだった。颜を苍(あお)ざめさせ、黙り込んでしまった田中の表情を确かめてから、美马は冷たい薄笑いをうかべ、そのくせ言叶だけはひどく优しく、
                  「あの程度のことは、君の运が悪かっただけのことだよ、そのことは别として、君ももう齢だから、この辺で晚年を故郷でゆっくり送るのも一つの考え方だよ」
                   言叶に或(あ)る种の感慨をもたせるように云うと、田中の表情が动いた。そして暂(しばら)く黙り込んでいたが、杯を一杯ぐっと空けると、
                  「検査报告のコピーは、六位から九位まで、私の手もとには揃(そろ)っていませんから、担当している者を调べて、全部、手に入れておきましょう」
                   嗄(かす)れるような声で约束した。
                  


                  IP属地:上海114楼2011-10-22 23:02
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                    「あなた、お冷水(ひや)をお持ちしましょうか?」
                     と闻くと、美马は颔いた。田中松夫に极秘情报を齎(もたら)すように口说いた后、さすがにあと味の悪さを覚え、したたか饮みすぎて、悪酔いしているのだった。ネクタイをゆるめ、颜を仰向けにしてソファにもたれると、眼の上に舅から赠られたビュッフェの絵があった。叶を落したパリの街路树の枝が天を突き刺すように锐い研(と)ぎ澄ました线で描かれているのが、酩酊(めいてい)している美马の神経に障(さわ)った。お冷水を运んで来た一子は、美马が絵を鉴赏しているのだと思い、
                    「あなた、いい絵ですことね、ビュッフェの空に向った垂直の美しい线を见ていると、ゴシック建筑の风土の中に育った絵という感じが、つくづく致しますわね」
                     もの柔らかに云った。美马は一口、冷水を呑みこみ、
                    「号十五万円として、十五号で二百二、三十万円か――、しかしお舅さんのご用命の内容からみれば、决して高くはないさ」
                     一子は、夫の酒気に染まった颜を见诘めた。ずっと父の経済的援助を受けていながら、父からちょっとでも頼まれごとをすると、恩きせがましい云い方をし、しかもせっかくの絵まで金に换算してしまう。一子は、所诠(しよせん)、育ちの违いだと思った。
                     美马は酔いざめの水をもう一杯、一気に呑み干すと、
                    「さて、お舅さんに、本日のご报告を申し上げることにしようか」
                     电话器を取り上げ、万表大介の书斎直通の电话にダイヤルを廻した。
                    「もしもし、お舅さんですか、仆です、昨日はどうも――、ご依頼の件は今夜、早速、これという相手に当ってみましたが、何しろ、ことがことですので、慎重と适确を期し――、いや、その辺のところは、今暂く私におまかせ下さい、何とか致しますから――」
                     美马は、壁に掲(かか)ったビュッフェを眺めながら、田中松夫と话はついているのに、故意にこと难かしく云った。
                     大介は、大岛の和服姿に庭下駄を履き、银平の新居の工事现场を见下ろせる高みに立っていた。
                     眼下の向って右侧が、大介自身が住んでいるスペイン风の赤い屋根と白い塔のある洋馆、真ん中が亡父敬介が住まっていた数寄屋(すきや)风の日本馆、大きな池を隔てて东侧に、长男の鉄平が住んでいるル.コルビジェ式の白亜の洋馆と、それぞれが独特の趣をもって点在しているが、今、日本馆の半分が取り壊されていた。七间(しちけん)の梁(はり)が通った客殿と仏间、茶室、それに衣裳(いしよう)部屋と総桧造(ひのきづく)りの汤殿は残し、平素、父と母が使っていた部分を、银平の结婚后の新居のために、南欧风の洋馆に改筑しているのだった。
                     鉄筋コンクリート二阶建て、五十坪の建物は、まだ足场が组まれていたが、家の主体工事はほぼ终り、外侧の壁涂りや内侧のタイル贴(は)り、水道、电気などの作业员が出入りして、最后の追込みで慌(あわただ)しかった。
                     この新居の普请にも、当人の银平は、最初の设计図に一度眼を通したきり、殆ど工事现场に颜を出さなかったから、大介は、休日でゴルフにも出かけない日は、朝から普请を见に来ているのだった。
                     现场监督は、庭の高みに立っている大介の姿に気付くと、急いで駈(か)け寄り、
                    「これはこれは、头取、お早うございます、ちっとも存ぜず、失礼致しました」
                    「いや、突贯工事で急がせてすまないね」
                    「いえ、いえ、お休みのところ、早朝からお喧(やかま)しゅう致しております、それに致しましても、日本馆のお取壊しは、りっぱな梁や一枚板などが、ふんだんに出て参り、ほんとにもったいないほどで――」
                    


                    IP属地:上海116楼2011-10-22 23:02
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                       惜しむように云ったが、大介は、亡父の财力で建てた日本馆の半分を取り壊し、自分の财力で、息子のための住まいを新たに建てることを楽しむかのように眺めていた。
                      「新婚夫妇の住まいだから、くれぐれも工期の方は、遅れぬように頼むよ」
                       と云うと、大介は踵(きびす)をかえし、池の方へ廻った。昨夜、美马からかかって来た电话が、今朝がたの心境を明るくしていた。美马らしく、早速、ことの绪(いとぐち)をつけ、あとは私に任せて下さいと、自信ありげに云ったのだった。大介は、最近ほど、一子を美马に嫁がせた利点を强く感じる时はない。
                       池の前まで来ると、足を止めた。ここにたつと、いつも亡父の敬介が、朝、起きるなり、庭下駄をつっかけ、ぽんぽんと手を叩(たた)いて、三十数尾の鲤(こい)に饵(えさ)を投げ与えていたのを思い出す。
                       その时、池を挟(はさ)んだ东侧の洋馆の方から、鉄平が步いて来るのが见えた。
                      「お父さん、お早うございます」
                      「うむ、お早う、休日なのに早いじゃないか、今日も工场へ出勤するのかい?」
                       背広姿の鉄平を见て云った。
                      「工场は年中无休で动いていますから、ちょっと见に行ってこようかと思って――」
                       鉄平は、工场へ行くのが何よりもの楽しみであった。
                      「こんなところのたち话で、なんですが、例のわが社への融资の件、お父さんの方で引き受けて下さいますでしょうね」
                       念を押すように云ったが、大介は即答しなかった。
                      「大同银行の三云头取は非常に积极的な态度を示して下さっていますし、通产省のほうも、大川の舅(ちち)が努力してくれていますから、あとはお父さんの“头取决裁”という强力なバック.アップをお愿いしたいのです」
                       大介はそれにも応(こた)えず、何かを见入るように、じっと池の面を见ていた。朝阳の中で银髪が辉き、その端正な横颜は、父というより冷厳な银行家という方が似つかわしい表情だった。大介は徐(おもむ)ろに、鉄平へ视线を向け、
                      「今の阪神特殊钢の规模で、高炉建设などをすれば、业界から袋叩きにあいかねないのではないかね?」
                       慎重に、口を切った。
                      「その点は、仆も充分承知の上で、なお……」
                      「もういい、お前のいうことはだいたい解(わか)っている、だが、世间はそんなに甘くはない、お前は自分の力を过信しているんじゃないか、大同银行の三云头取は、たまたまお前のニューヨーク时代の知己だった、大川一郎は、お前の妻の父だ、私はともかく、この二人の协力を得られなかったら、お前に一体何が出来たか、猪突(ちよとつ)猛进も结构だが、少しは冷静に考えてみることだな」
                       鉄平は黙った。
                      「高炉は通产省の认可が下り、资金调达が出来れば、何とか出来るだろう、だが、それから先はどうするのだ、その先もお前一人の力で、何とかなるというわけなのか?」
                      「もちろん、采算のとれない计画など、はじめからしやしません」
                      「そうか、その気ならやるがよい、やる限りは必ず成功させることだ、企业である限り、绝対、利润をあげなければならない、その点は大丈夫だろうな?」
                      「高炉、転炉の设备によって、トン当り、平均一万五千円ぐらいのコスト.ダウンが可能になり、新设备の偿却、借入金の金利、人件费の増加などを差し引いても、売価の引下げは、トン当り五千円前后になりますよ」
                       と云いきった。
                      「じゃあ、行内の筋を通す意味で、调査部の调査を経て融资额をきめることにしよう、しかし断わっておくが、银行の融资には、亲子も兄弟もない、冷厳なものだ」
                       そんなことは、云われるまでもないことで、こと新しく口にする父の方がおかしかった。
                      「もちろんです、私もそのつもりでやりますよ」
                       鉄平は、きっぱりと応えたが、いつになく、妙にからんだものの云い方をする父の言叶が気になった。


                      IP属地:上海117楼2011-10-22 23:02
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                         阪神银行としては、阪神特殊钢の高炉建设をどのように评価しているのだろうか。融资する以上は、充分に资金回収ができると见た上であるはずだが、父の言叶は厳し过ぎた。公私にこだわっているのは、むしろ父の方ではないかと、思った。
                        「ところで、“将军”の姿が、最近、见えませんね」
                         鉄平は、话题をかえた。将军というのは、祖父の敬介が爱玩(あいがん)していた体长八十センチもある吉野川产の巨鲤(おおごい)であった。
                        「うむ」
                         大介は、生返事をした。
                        「死んだのでしょうか?」
                        「いや、どこかにいるはずだ、お前が手を叩けば、きっと、现われるよ」
                        「私が叩くと……どうしてです?」
                        「お前は、お祖父(じい)さんと手の叩き工合までそっくりだからな」
                        「まさか――」
                         鉄平は、笑った。
                        「じゃあ、试しに手を叩いてごらん――」
                        「いやですよ、马鹿马鹿(ばかばか)しい、前にそんなことがありましたが、あれは偶然ですよ」
                        「偶然かどうか、まあ、やってみることだ」
                         まるで対决を迫るように云った。鉄平は、马鹿马鹿しく思いながら、池のはたにしゃがみ、水面に向って手を打った。间もなく静かに藻(も)をゆるがせて、どこからともなく、三十数尾の鲤が群れをなして泳いで来た。
                        「そら、来たじゃないか」
                         大介はやや昂(たかぶ)るような声で云ったが、将军はまだ现われない。群れをなし、うねるように泳いで来た鲤は、饵をやると争うように食いつき、池の周囲に沿って游泳した。鉄平はもう一度大きく三つ、手を叩いた。たしかに祖父も三つ叩いていた记忆があった。池の面が小波(さざなみ)だち、波纹が拡がったかと思うと、“将军”の黒い影が、悠然として现われた。锦鲤(にしきごい)の中で、『墨流し』の一种と云われる変り鲤で、黒の浓淡の鳞(うろこ)を持ち、背のあたりは黒漆のように光り、赤、黄、红白など、种々の色に彩(いろど)られた锦鲤の中で、寿齢五十年、体长八十センチの威容はいかにも将军の呼名にふさわしい。水面に头を出すと、鉄平の足もとまで悠然と泳いで来、竹筒のような大きな口を开けて、鉄平の掌(てのひら)から蚕のさなぎの饵を食べると、姿を消した。
                        「それみろ、やはり来たじゃないか」
                        「なるほどね、どうしてでしょう?」
                         鉄平は首をかしげた。
                        「それはお前が、おじいさん子だからだろう」
                        「そりゃあ、私はおじいさん子でしょう、お祖父さんの膝(ひざ)の上に抱かれたのは、私だけらしいから――」
                         おじいさん子という言叶を、大介は、もしや亡父と妻とのという鉄平の出生への疑惑の意味で云い、鉄平はいわゆる祖父に可爱(かわい)がられたという风にとって、二人の意味は微妙にくい违っていた。
                        「それだけじゃない……」
                         大介は、池に向って低く独りごつように云った。
                        「え? それだけ何ですか?」
                        「いや、要は、お前が大へんなおじいさん子だということだよ、鲤を呼ぶ手の音まで似ている」
                         なおも云ったが、鉄平は鲤にかかずらわっている时间はなく、
                        「では、行って参ります」
                         车库(ガレージ)の方へ足を急がせた。
                         鉄平は、自ら运転する车で工场内に入ると、すぐ事务本部の建物の中にある専务室へ入った。出勤していた事务员は一瞬、惊いたような颜をしたが、休日には时々、事前に连络もせず、运転手を休ませて、自分の车で工场を见に来ることがあったから、すぐ作业衣の用意をした。
                        


                        IP属地:上海119楼2011-10-23 22:24
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                           早口でまくしたてるように用件を云い终ると、ガチャンと电话をきってしまった。鉄平の胸に沸々(ふつふつ)と喜びがこみあげて来た。二年前から计画をたてて実现し得なかった高炉建设が、やっと阳の目を见ることが出来るのだった。鉄平は受话器を置くなり、すぐ操作室を出、デッキにたっている一之瀬を呼んだ。
                          「高炉建设はOKだ、今、大川の舅(おやじ)から知らせてきた」
                          「そうですか、やっと高炉が产声(うぶごえ)をあげますか――」
                           一之瀬が感慨无量のように眼を瞬(しばたた)かせると、鉄平は、
                          「じゃあ、早速、技术サイドの问题を検讨しようじゃないか、制钢部长の金田君を呼んで、仆の部屋へ来てくれ、今日なら外部の来客や电话に烦(わずら)わされなくていい」
                           と云うなり、もう事务本部に向っていた。
                           専务室へ一之瀬と金田が来ると、鉄平は高炉设备计画书を机一杯に拡げていた。高炉八百立方米(リユーベ)一基、転炉六十トン二基、アッセルミル圧延机一台、その他付帯设备を入れて、総额二百五十亿の设备计画书で、三人の间ではもう何度も検讨され、手直しした计画书であった。
                          「まず高炉をどこのメーカーに作らせるかということだが、高炉建设に惯れている五菱(ごりよう)重工がいいと思うから、早速、五菱重工に详细な积算をさせることだ」
                           鉄平が云うと、金田制钢部长は、覇気(はき)に満ちた若々しい表情で、
                          「炉底七メートル、炉高六十メートル、八百立方米(リユーベ)の高炉は规模からいえば小さいですが、最新の设计を取り入れたいですね、炉顶部に高圧装置をつけ、高圧を何ポンドかかけることによって、出铣量(しゆつせんりよう)があがりますから、これを取り入れること、それから炉内の通気性を良くし、还元効率を高めて、燃料费をきりさげるために、酸素と重油を大量にふき込める设计も取り入れ、鉱石の挿入(そうにゆう)もいうまでもなく、大量安全に运べるベルト.コンベア方式にすることです」
                          「もちろんだ、高炉ができれば、钢の段阶でトン当り五千円も安くなるのだから、阪神特殊钢の体质改善のためにも、最新の设计を取り入れるよ、次に问题なのは原材料だ、年间、鉄鉱石は七十二万トン、コークスは二十五万トン、コークスに要する石炭は三十一万トンを必要とするが、これらの原材料は殆(ほとん)どオーストラリアとブラジルからの输入で、わが社一社だけで购入することは困难だから、どこかの高炉メーカーに頼んで、原材料を共同输入させてもらう交渉をやってみる」
                           鉄平が云うと、一之瀬は事务员が运んできた番茶で咽喉(のど)を润(うるお)し、
                          「问题は、高炉を动かす技术ですが、これはどうします?」
                          「高炉操业の技术は绝対、経験者でなければならないから、帝国制鉄に技术指导を依頼するか、それとも他社からスカウトするかだが、この方は心づもりしているから、任せてくれ」
                           鉄平は自信ありげに云った。
                          「するとあと残された点は资金调达ですが、阪神银行は随(つ)いて来てくれるのでしょうね?」
                           一之瀬はともすれば、経理面を度外视しがちな鉄平の欠点を补うように云った。
                          「そのことは、今朝、会社へ来る前に、父に念押しして来た、父は阪神特殊钢が高炉メーカーになることにまだ不安を抱いている様子だが、通产省の认可がおりた以上、必ず支援してくれるよ」
                           父を信頼するように云った。
                           阪神银行の头取室に、珍しく灯(あか)りがついていた。
                           万表はさっきから、叶巻をくゆらせているだけで、一言も话さない。大亀専务を呼んでおきながら、まるでそこに彼がいるのを忘れ果てているかのようであり、部屋の中はしんと静まりかえっている。しかしそんな时は、必ず万表头取が何かを思い迷っている时であることを、大亀は知っていた。秘书课长时代から万表に仕えて二十数年になる。その间、営业部长时代に直属の部下が多额の不良贷付をしたため、大亀も进退伺いを出したこともあったが、头取は长い目で见てくれ、その后の寝食を忘れた働きを认めて、今日の地位に取りたててくれたのであった。それだけに大亀は、万表头取に忠节を尽し、万表の一挙手一投足、咳払(せきばら)いの仕方一つにも気を配ってきたから、今では、ちょっとした仕种(しぐさ)を见るだけで、万表の心の动きが読み取れるのだった。
                          


                          IP属地:上海121楼2011-10-23 22:24
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                             万表は、六尺近い长身をゆったりとソファにもたせかけているが、叶巻をもつ指先が时々、神経质に动く。
                            「お茶でも、申しつけましょうか?」
                             気持をほぐすように大亀が云うと、
                            「いや――」
                             头を振り、视线を天井のレリーフに向けた。万表が何か判断に迷った时に、よくする癖であった。戦灾に焼け残った古い建物にしか见られない古典的で华丽なレリーフであり、それを见ると、心が憩(やす)まり、静まるのだった。まだ先代头取の万表敬介が健在で、大介が若い取缔役だった时代から、始终、大介の身近に仕えて来た大亀には、大介が天井を仰ぎ、レリーフを眺めるのは、仕事か、さもなければ、女のことで思案にあまっている时であるのを知っていた。公卿(くげ)华族の嵯峨宁子と结婚する前から、秘(ひそ)かに囲っていた女の始末をした时も、その女のことで三流业界纸にゆすられた时も、莫大(ばくだい)な金を敬介に隠して工面し、もみ消しに走ったのは大亀であった。いわば万表大介の人に知られたくない影の部分の尻拭(しりぬぐ)いをすべて任されて来た男だった。それでいて、一言も人に泄(も)らさず、恩きせがましい颜もせず、その上、仕事の面でも、秘书畑と営业畑という银行の本筋を步いて来ており、その点が、単に万表家の金库番的功绩で専务に成りあがった“家令専务”の小松とは违っていた。
                            「头取、何かよほどのお考えごとでも――」
                             万表は、はじめて视线を动かし、
                            「大亀君、私は当行の合并を考えているのだ」
                             はじめて、行内の者に合并の意図を泄らした。
                            「合并……、どことです――、具体的な话でもあるのでしょうか?」
                             大亀は、息を呑(の)むように云った。
                            「いや、そうではない、これから私がやろうと思っているのだ」
                             万表は、叶巻を口から离した。
                            「头取、お言叶を返すようですが、たしかに当行の业绩は抜群とはいえません、しかし何も今、合并を考えねばならぬほど追い诘められた経営内容でもございません、万一、不幸な合并をした时の惨(みじ)めさを思うと――たとえば曾(かつ)て大友银行と合并した南大阪银行などは、役员が、二年目には当初の三分の一、四年目に十分の一、七年目の今日では、もはや谁一人残っておらず、彻底的に淘汰(とうた)されてしまったではございませんか、吸収行と被吸収行は纸一重ではなく、天国と地狱の违いです」
                             これまで被吸収行の惨めさをつぶさに见て来た大亀は、声を震わせるように云った。
                            「だからこそ、当行のように上位行から欲しがられる规模のところは、坐(ざ)して食われるのを待つより、先手を打って対等もしくはこちらがリーダー.シップをとれる合并、つまり“小が大を食う”合并をやってのけたいのだ」
                            「それは、あまりに无谋なお考えではないでしょうか、今までの例をみましても、表面は対等合并といいながら、やはり実质的には、大が小を支配してしまうのが现実です、それに第一、まだ都市银行间の合并は、机运としても时机尚早(しようそう)だと思います」
                            「时机尚早――、决して尚早ではないじゃないか、现に先日来、富国银行から、クレジット.カードの业务提携に次いで、当行にとってはメリットがあり过ぎるような预金の相互受払いの业务提携まで云って来ているじゃないか、それでいて一方では、当行が长年、水やり、肥料(こえ)やりして育てて来た平和ハウスに、先月の末、まるで公定步合のような安いレートで贷しつけている、これらを综合(そうごう)すると、富国银行が、秘かに当行へ攻略の手を伸ばして来ていることは歴然としている」
                            


                            IP属地:上海122楼2011-10-23 22:24
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                               大亀は、ようやく万表の长い思案の内容をつかみ、それが万表の心を不安と焦燥に駈(か)りたてていることが解(わか)ったが、
                              「といって、性急に合并の方向にものをお考えになるのは、早计ではないでしょうか、この际、大きな危険をおかさず、阪神间の経済圏と密着した银行、という立场を手坚く守りぬく道もございます」
                               あくまで手坚く城を守る意见を出すと、万表は头(かぶり)を振った。
                              「性急でも、早计でもない、私が合并の気持を固めたのは今年の初めからだ、娘婿(むすめむこ)の美马を连络役にして、私が二月に永田大蔵大臣に会ったのも、実のところは、当行に合并の意思があることを暗に伝え、それに対する大臣の反応を探るためだったのだよ、また最近、美马を呼んで、六位から九位までの都市银行について、大蔵省しか把握(はあく)し得ない极秘の计数情报を入手してくれるように頼んでいる」
                               着々と布石しつつあることを话すと、大亀は愕(おどろ)くように万表を见诘めた。しかし、やはりすぐには肯(がえん)じきれぬように、
                              「正直なところ、私にはどうしても危険极まりないことのように思えます、しかし、头取が、何が何でも、合并を断行しようとなさるのでしたら、せめて当行より下位の、そこそこのところと安全な合并を――」
                               と云いかけると、万表は言下に遮(さえぎ)った。
                              「当行より下位の银行と一绪になるような中途半端(はんぱ)な合并をすれば、また再编成の中に组み込まれてしまう、やるからには、少なくとも当行と同クラスを狙(ねら)って、それで终着駅になるような合并を断行すべきだ」
                              「では、最后にお闻かせ戴(いただ)きたいことがあります、万一、失败した场合、九千二百人の従业员の将来と、先代から今日まで営々として筑いてこられた阪神银行のオーナー头取という地位はどうなさるのです、そうした危険が伴うことを充分にご承知になった上で、なお合并をと仰(おお)せられるのですか?」
                               大亀は青ざめた颜で、开き直るように云った。さすがの万表も、暂(しば)し口ごもったが、
                              「そりゃあ、日夜、営々として働いている九千二百人の行员の将来や、私自身のオーナーとしての立场を思えば、万一、失败した场合、空怖(そらおそ)ろしいことになる、しかし逆に、何も为(な)さずして、坐して食われることは、それ以上に……」
                               万表は、绝句した。それは美马の前では绝対に见せない、不安と弱さを剥出(むきだ)しにした姿であった。万表が人间的な弱さを安心して露呈できるのは、大亀だけだった。芥川や渋野、荒武などの切れ者の常务には见せない弱味も、大亀にだけはあからさまに曝(さら)け出していた。企业のトップとして决断に迷う时、不安に袭われる时、また银行の头取という品位が问题にされそうな时、万表は必ず大亀を呼んで心中を吐露した。そして吐きだしてしまうと、ほっと安堵(あんど)する。それはたとえてみれば、下痢(げり)をしそうになってすぐ便器に走るそれに似ていた。いってみれば、大介にとって、大亀は便器であった。むろん、大亀もそれを承知していた。承知しながら、大亀の人柄はそれを快しとしていた。
                               万表はたち上って、向いのビルの间から见える神戸港の暗い海を眺めた。夜の海と同じように、金融界の再编成も、表面はさほど波だっていないが、底には大きなうねりがあるはずであった。それを他行より先んじて察知し、自行の方向を考え、决定するのが、头取の役目であった。万表は、大亀を振り返り、
                              「私は头取の地位を舍てねばならぬような马鹿(ばか)な合并はしないよ、银行合并は最终的にはトップ同士の力関系によってリーダー.シップがきまる、その点、私はそこいらの佣(やと)われ头取とは违う、オーナー头取だ、相手の首をねじきるだけの能力と自信をもっている、その上、美马を通して永田大蔵大臣とは绝えず気脉を通じ合い、用意周到にやるから、大亀君、ここは一つ协力を頼みたい」
                              


                              IP属地:上海123楼2011-10-23 22:24
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